「悪霊の囚われた倉」

その倉は、町外れの古びた場所に建っていた。
長い間放置されていたため、周囲の草木は鬱蒼と繁り、まるで倉そのものを隠すかのように生い茂っていた。
誰も近づかないのは、そこにまつわる語り草があったからだ。

昔、村人たちはその倉を「悪の倉」と呼び、恐れ敬っていた。
そこにはかつて、村の人々によって幽閉された悪霊が宿り、その霊は時折姿を現しては村に災厄をもたらしたと言う。
人々がその家に近づくと、誰の心にも不安と恐れが生まれ、目に見えない何かに囚われたような感覚に襲われるのだった。

復讐心と恨みは、悪霊を力づけていた。
その者は、倉の中で永遠にさまよい続け、自身の呪いを次の犠牲者に託けることを望んでいた。
そして、その目的を果たすために、倉を訪れる者を選んだ。

ある晩、薄暗い月明かりの下、一人の若者が倉に足を踏み入れた。
彼は都市から来た旅行者で、不気味な噂を耳にしながらも、その真実を知りたくてたまらなかった。
倉の扉は重々しく音を立てて開き、彼は内部に入る。
塵の舞う中、古い木の梁や無造作に散らばった道具が目に飛び込んできた。

だが、彼の興味がすぐに恐怖に変わったのは、その瞬間だった。
倉の中に立ち込める不気味な闇は、ただの暗闇ではないように感じられ、彼の背筋を冷たくした。
ふと、彼は何かの声を聞いた。
それは微かでありながら、生々しい響きを持っていた。
「助けて…」という哀願の声だった。

彼はその声の主を求めて、倉の奥へと進んでいく。
声は次第に明瞭になり、悲しげな響きが彼の心に影を落としていた。
恐怖を振り切るように進んでいくと、彼は一枚の古びた布がかけられた物体を見つける。
目の前には、無数の手が伸びており、彼を引き寄せようとしているようだった。

怯えながらも、彼はその物体を引き剥がそうとする。
すると、突如として暗がりから冷たい風が吹き抜け、周囲が荒れ狂う。
彼ははっと振り返ると、そこには悪霊の姿が現れていた。
透き通るような青白い肌、無表情な顔、そしてどこか怨念を込めた目をしていた。

「私を放っておけ」と彼は叫ぶが、声は空中を漂い、ただの嘆きとして消え去った。
悪霊は彼の目の前に立ちはだかり、まるで彼の心を覗き込んでいるかのようだった。
彼の中に抱える不安や恐れが剥き出しになり、悪霊はそれを楽しむように笑った。

彼は逃げようとするが、その足は動かない。
ドアは閉ざされ、出口は無く、彼はもがけばもがくほど、悪霊の力に囚われてしまう。
最後に彼はその倉の主となり、かつてのように新たな犠牲者を待ち望む存在へと変わってしまった。

その夜以降、村の人々はまたしても、彼の姿を見なくなった。
倉は静かに、そして暗く佇んでいたが、いつの間にか「悪の倉」に訪れる者が一人増えたと噂されるようになった。
なぜなら、その若者は今も倉の中でさまよい、次の訪問者を待ち続ける霊として、彼らの間に語り継がれることになったからだ。

タイトルとURLをコピーしました