「悪の木が語る真実」

静かな夜、望という小さな村は、不気味な闇に包まれていた。
村の隅には古びた神社があり、村人たちが昔から恐れられている「悪の存在」として伝えられてきた。
神社の境内には、誰も近寄らない古木が立っており、その木の樹皮には独特の文様が刻まれていた。
人々はその木に触れることさえ避けていた。

ある日、若者の遭がこの村にやってきた。
彼は好奇心旺盛で、古代の神社や伝説に魅了されていた。
村人から「神社には近寄るな」と言われたが、彼はそれを無視して、神社を訪れることに決めた。
暗い森を抜け、ひっそりと佇む神社にたどり着くと、彼の心は高鳴った。

神社の境内に入り込むと、彼はその古木の前に立ち尽くした。
樹皮に浮かび上がる文様は、まるで何かを訴えているかのようだった。
触れてみたいという衝動が湧き上がり、遭は思わず手を差し伸べた。
指先がその文様に触れた瞬間、彼の体は震え、周囲が暗くなった。
空気が重くなり、耳鳴りが響き始めた。

その時、彼の心の奥底に潜んでいた過去の記憶が呼び起こされた。
一番大切な人を失った悲しみ、家族との関わりを断った理由、そして、自身が抱えていた「悪」の思い。
彼はそれを否定し、忘れようとしていたが、今、目の前に現れた悪の存在は、それら全てを引き出していた。

突然、周囲の空間が歪み、視界が揺れ動く。
立ちすくむ遭の背後から、冷たい風が吹き抜け、彼は振り返った。
そこには、形をなさない黒い影が立ちはだかり、彼をじっと見つめていた。
その視線はまるで彼の心の内を見透かしているかのようだった。

「お前は何を求めてここに来たのか」と、低く響く声が彼の耳に届く。
遭は思わず言葉を失う。
影はさらに続けた。
「お前の過去を受け入れ、その真実を見つめなければならない。さもなくば、悪に囚われ続けることになるだろう。」

恐怖に駆られながらも、遭は影の言葉を無視することができなかった。
彼は神社で触れた古木の文様が、自分の過去を象徴していることに気づいた。
悲しみや悔恨、それらは悪の根源となり、彼を苦しめていた。
彼は深呼吸をし、心の中で自分に問いかけた。
「私は何を恐れているのだろうか?」

一瞬の静寂の後、影はさらに近づいてきた。
「今こそお前の心の中を見つめよ。恐れを克服することができなければ、お前の運命は決まってしまう。」

遭は自分の記憶を辿ることにした。
失った人々の姿が浮かび上がり、かつて感じた温もりや愛情が心に押し寄せてきた。
彼はその感情に身を委ねることにした。
「私は私を愛している。私の過去も、自分自身も認めるべきだ。」

その瞬間、影は静かに消え去り、周囲の空気が軽くなった。
遭の心は解放されたように感じられた。
古木から発せられる暖かなエネルギーが彼を包み込み、どこか心地よい感覚が広がっていった。

神社を後にする際、遭はふと振り返った。
彼の心に暗い影はもう存在しなかった。
村の人々が語り継ぐ伝説を理解し、彼自身もまた一つの物語の一部となったことを実感した。
村の夜は静まり返り、望の空には、ひときわ明るい星が輝いていた。

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