「悔いの原にて消えゆく影」

原の静寂な夜、月は雲に隠れたまま、薄暗い風景を包み込んでいた。
人々はこの地を忌み嫌い、真夜中には決して近づこうとはしなかった。
かつては賑わいを見せた村も、今は誰もいない廃墟と化し、残されたものは哀愁に満ちた静けさだけだった。
伝説によれば、この地では「悔い」を持った者が消え、二度と戻らないという。

主人公の琳は、都会での生活に疲れていた。
様々な人間関係に悩み、いつも他人の目を気にしていた。
そんな彼女は、原に伝わる怪談を思い出し、どこか惹かれるものがあった。
自分の悔いと向き合い、そして消えてしまうことで新たなスタートを切りたいという逃避的な気持ちが、彼女を原へと導いた。

原に着いた琳は、朽ち果てた家々や、風に吹かれて揺れる草木を見つめながら、胸の中に渦巻く悔いを思い浮かべる。
「どうしてあの時、あの選択をしてしまったのか」「あの人にもっと優しくできたのに」—彼女の心の中には、過去の選択に対する悔しさが満ちていた。

ひとり原を歩いていると、耳元に微かな声が響いた。
「ここにいるのか、悔いを持つ者よ」振り返っても誰もいない。
ただの風の音だろうと思ったが、その声は彼女の心にえもいわれぬ不安を抱かせた。
琳はそのまま踏み込むように、原の奥へと進んでいった。

進んでいくうちに、次第に空気が重くなり、背筋が寒くなるのを感じた。
何かに見られているようで、心臓が高鳴る。
突然、彼女の目の前に一つの古びた文が現れた。
それはかつてこの地に住んでいた人々の悔いが記されたもので、今は霊的な存在に憑依されているようだった。
彼女はその文を手に取り、ゆっくりと読み始めた。

「私の選択が、彼の命を奪った」「あの日、あの時、助けを求めていた彼女を見捨ててしまった」…琳は次第に、その言葉が一つ一つ彼女の心にのしかかってくるのを感じた。
誰かの想いが、この地に染み込んでいる。
彼女は同じように感じ、強い罪悪感に苛まれていた。

やがて、琳は次第に目の前の情景が歪むのを感じた。
周囲の風景がぼやけ、彼女は心の中の暗闇に飲み込まれていく。
耳元にかすかな声が響く。
「消えてしまえ、悔いも共に」その言葉を耳にした瞬間、彼女の身体は動けなくなり、足元から引きずり込まれるように暗闇へと沈んでいった。

恐怖に駆られながらも、琳は自らの選択と向き合おうとした。
「私は逃げない、悔いを受け入れる」と心の中で叫んだが、その声は次第に小さくなり、無力感にあふれた。
まるで自らが消えていく運命を受け入れたかのように、意識は薄れていった。

そして、琳は完全に消えてしまった。
原には再び静けさが戻り、彼女の姿を見かけた者は誰もいなかった。
時間が経つにつれて、彼女が残した足跡は風に掻き消され、原の中に新たな「悔い」を宿す者として、彼女の存在はやがて忘れ去られていった。
しかし今でも、原を訪れる者がいるとすれば、彼らは不気味な静寂に目が覚め、どこか別の次元に囚われた琳の声が、闇の中で囁くのを聞くことになるだろう。

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