ある静かな村、その名も「時の村」では、時の流れが他の場所とは異なると言われていた。
村の近くには古びた神社があり、そこには人々が恐れる「鬼」が棲んでいるとの噂が立っていた。
その鬼は、過去に強い恨みを持つ者たちの姿を現し、復讐を果たすために人々の前に現れるという。
村人たちは、古い伝説を信じ、神社には近づかないようにしていた。
しかし、一人の若者、名を尚人という彼は、好奇心にかられ、仲間たちと共に神社の調査に出かける決意をした。
彼は勉強熱心で心優しい性格の持ち主だったが、村の習わしには無頓着で、夜の神社へ行くことに大きな興奮を感じていた。
その晩、尚人は仲間と共に神社へと足を運んだ。
薄暗い境内には冷たい風が吹き抜け、不気味な雰囲気が漂っていた。
彼らは神社の奥へ進むにつれて、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
そして、突如としてその鬼の姿が現れた。
「お前たち、何故ここに来た?」鬼の声は重く、響き渡った。
彼の目は炎のように赤く光り、尚人たちを見据えていた。
仲間たちは恐怖に凍りついていたが、尚人は圧倒されながらも冷静さを保とうとした。
「私たちはただ、村の伝説を確かめに来たんです。」尚人が口を開いた。
「伝説、か……」鬼は一瞬静まり返り、その目が暗く沈んだ。
「私もかつては人間だった。私の名は健二。命を奪われた者たちが、時の砂の中で哀しみと恨みを募らせている。再び命を与えることで、逆に私の冤罪を晴らしてほしいのだ。」
尚人はその言葉に戸惑った。
鬼はただの悪として描かれていたが、そこには未練や悲しみが宿っているようだったと感じた。
そして、彼は彼の不幸を理解しようとしていた。
「私たちに何ができるのですか?」尚人は尋ねた。
「鬼となってしまった私を解放するためには、あの者たちの復讐を叶えるしかない。」健二は言った。
「お前たちは時の流れを超えて、過去に私を害した者を見つけ出すのだ。その者の命を奪うことで、私も再生することができるだろう。」
仲間たちは逃げ出そうとしたが、尚人は立ち止まった。
「あなたの復讐を果たすために、私たちが罪を犯すのですか?それでは永遠に同じ輪廻が繰り返されてしまう。」尚人の言葉は鬼に響いた。
たとえ鬼であろうとも、尚人は彼の恨みを受け入れようとはしなかった。
「お前は、逆に私の心を溶かす者かもしれん。だが、恨みは消えない。お前たちがここにいる限り、この時は止まり続ける。」健二は言い放ち、再び姿を消した。
尚人たちは恐慌の中、急いで神社を後にした。
しかし、村に戻ると、村人たちの様子が一変していた。
皆の目は虚ろで、動きが鈍い。
尚人は気づいた。
「みんな、過去の影響を受けている。時が逆に流れ込んでいる!」仲間たちは恐れを抱きながらも、時の村の秘密を探ろうとした。
しかしその時、尚人は健二の後ろ姿を見た。
「彼を解放しなければ、私たちは永遠にこの姿でいるのかもしれない。」
尚人は鬼の心を知り、過去の悲しみを背負う覚悟を決めた。
彼は仲間たちに言った。
「我々は、ただの復讐ではなく、彼の苦しみを理解しよう。これからの時の流れを変えるために、私たちが動く時が来たのだ。」
尚人は村人たちとともに、鬼と向き合う道を選んだ。
鬼の呪縛を解くために。
人々の心の中の恨みを再生するのではなく、許しで満たすために。
時間は再び動き始める。