静かな町の隅に、古びた祠がひっそりと佇んでいる。
この祠は、昔から「呪われた祠」として知られており、近づく者は誰もいなかった。
町の人々はその恐れから、祠の存在を語ることさえ避けていた。
しかし、その秘められた歴史を知らない者たちは、好奇心に駆られて、この呪われた場所に足を運ぶこともあった。
ある日、大学生の田中翔太は友人たちと共に、肝試しに出かけることにした。
行き先はもちろん、町外れの祠だ。
「あの祠なんて本当に怖いのか?」と彼は笑い飛ばす。
「僕らが行けば、何も起きないさ。」翔太の自信満々な言葉に、友人たちも刺激を受け、期待と不安の入り混じった気持ちで、祠を目指した。
暗く静まり返った夜、彼らはついに祠にたどり着いた。
朽ちた木材と苔むした石の間から、薄明かりの下に灯るろうそくの光がちらちらと揺れていた。
そして、その瞬間、翔太は奇妙な「気」を感じた。
まるで誰かに見られているような、不気味な感覚だった。
しかし、彼はその感情を軽視し、「大丈夫、大丈夫」と自らに言い聞かせる。
祠の前に立つと、友人たちは興奮し始めた。
「怖い話をして、場の雰囲気を高めよう」と言い、彼らは互いに言葉を交わした。
翔太もその輪に入って、「俺は呪いの話を知っている」と軽い調子で話し始めた。
彼が呪いを語っている途中、急に風が吹き込み、そのはずみでろうそくの火が消えてしまった。
暗闇が彼らを包み込み、友人たちの間には緊張が走る。
「早く灯りを!」と誰かが叫んだ。
翔太は懐中電灯を取り出し、周囲を照らそうとした。
その瞬間、彼の目の前に何かが現れた。
白い着物をまとった女性の霊だ。
彼女は静かに翔太を見つめている。
翔太は一瞬硬直したが、次の瞬間、恐怖が彼を支配した。
彼女の目は虚ろで、感情を感じさせない。
翔太は叫び声を上げることもできず、ただその場から逃げ出そうとしたが、彼女の存在が彼を引き留めるかのようだった。
「呪われています…」その声は翔太の耳に直接響いた。
まるで彼女の言葉が、翔太の心に染み込み、鼓膜を通り越して直接意識をするりと滑り込んできたようだ。
彼女の姿は、次第に薄れていくが、その気配は濃厚に翔太の周囲に残った。
翔太は友人たちに「逃げよう!」と叫ぶが、彼らも恐怖に怯えて動けない。
「動かなきゃ、呪いにかかる!」翔太は彼らを引っ張り、祠を後にした。
その時、何かが彼の手に引っかかった。
振り返ると、祠の奥から古びた人形が転がり落ちてきた。
翔太は躊躇せずその人形を拾い上げる。
「これは何だ?」彼の手には、どこか不気味な気配を放つ人形が握られていた。
町に戻ると、翔太はその人形を手放すことができなかった。
友人たちはそれぞれの家に帰り、彼は一人でその人形を抱えたまま、床に座り込んだ。
「あの怨霊は、やっぱり僕を狙っていたのか…」日が経つにつれ、彼は次第に不安定な精神状態に陥っていった。
眠ることもままならず、彼はその人形を眺めている。
夜になると必ず女性の霊が現れ、その時だけは彼の周囲が静まり返るのだ。
翔太は恐れと戦いながら、何とか日常生活を続けようとしたが、人形は日増しに彼を呪いで蝕んでいく。
「もう限界だ…」とうとう彼は人形を捨てる決意をした。
ある夜、彼は何とか人形を掴み、外に出た。
しかし、不幸な運命は既に彼に取り付いていた。
彼が人形を投げ捨てた瞬間、背後に感じた冷たい気配が心臓を締めつけ、彼はその場に倒れ込んだ。
次の日、翔太は townの新聞に載った。
「若者が謎の死を遂げる」という記事、そしてその傍には祠の写真と共に不気味な人形が描かれていた。
彼自身が恐れた「呪い」は、いつしか彼自身の運命を変えてしまっていたのだ。
聖なるものと悪しきものの狭間で、彼の人生は永遠に交わってしまった。