「思い出の光」

ある夏の終わり、若葉町という静かな村に、ひとりの大学生、優斗が帰省してきた。
彼は東京の大学に通っているが、久しぶりの故郷の空気を吸い、心が休まるのを感じた。
村は自然に囲まれ、子供のころの思い出が詰まっている場所だった。
ただ、最近の噂でこの村が少し変わってきていることを耳にしていた。
それは、村の外れにある廃墟の神社で、奇妙な現象が起こっているというものだった。

優斗は仲間の健太と美咲と共に、その神社に行くことを決めた。
「夜になると、天にかかる光が見えるらしいよ」と健太が言った。
「本当にそんなことあるのかな?」美咲が首をかしげた。
優斗は興味津々だった。
夜、彼らは神社へ向かうことにした。

神社に着いたころ、辺りはすっかり暗くなっていた。
月明かりが薄暗い境内を照らし出す中、三人は神社の中に入り込んだ。
そこは朽ち果てており、獣のような音が響く。
美咲は少し怯えながらも、「ちょっと探検してみない?」と提案した。

不安を抱えながらも、優斗たちは奥へ進んでいった。
その瞬間、空が一瞬明るくなり、白い光が彼らの頭上にかかる。
思わず立ち止まった三人は、その光の正体を見つめた。
それは、雲の隙間から漏れる月明かりとは異なる、奇妙な明るさだった。

その時、突然声が響いてきた。
「助けて…」というかすかな声。
優斗は思わず耳を澄ませる。
「誰かいる?」と声を張り上げた。
しかし、答えは返ってこなかった。
再び声がした。
「助けて…私を思い出して…」それは女性の声だった。

三人はその声に引き寄せられ、さらに神社の奥へと進んだ。
そこには古ぼけた祠があり、その中に白い着物をまとった一人の女性が立っていた。
彼女は優しい目をしていたが、その表情はどこか哀しげだった。
優斗はその女性に近づき、「あなたは…誰ですか?」と尋ねた。

女性は微笑んで、こう言った。
「私はこの村に住んでいた絵美。何年も前、天に昇ってしまった…でも、彼を救うためには私を思い出さないといけない。」優斗は混乱した。
彼女が誰を指しているのか、全く見当がつかなかった。

「私の恋人、健太。」その時、女性の目が健太に向けられた。
健太は驚き、後ずさる。
「俺は…お前のことは知らない!」と否定したが、絵美の目がその言葉を受け止めることなく、健太を見つめていた。

「彼を救うためには、私のことを思い出してほしい。」絵美の声が再び響き渡った。
何も知らない優斗と美咲は、呆然と立ち尽くした。
健太が絵美のことを本当に覚えていないのだとしたら、彼女の未練は永遠に続いてしまうのではないか。

周囲の空気が変わり、急に風が吹き始めた。
美咲は何かを感じ取り、「絵美さん、健太にさせてあげて!」と叫んだ。
健太は絵美を思い出すため、自分が知らない過去に目を向ける必要があると感じ始めた。

「絵美…」彼はつぶやきながら、何か記憶を掘り起こそうとした。
すると、次第に彼の目の前に彼女の姿が浮かび上がった。
二人が一緒に過ごした楽しい日々が蘇った。
健太の中に温かな感情が満ちてきて、彼の声が絵美の名前を呼んだ。
「絵美!俺はお前を忘れない!」

その瞬間、絵美の姿が明るく照らされ、涙のように光り輝く。
空に向かって上昇していく。
健太はただ見上げることしかできなかった。
彼の心の中に、絵美の愛がしっかりと刻み込まれた。

静寂が戻ったとき、三人はその場に立ち尽くした。
空には何も残らなかったが、吹き抜ける風に乗って、絵美の声が消えていくのを感じた。
「ありがとう…」

夜空に輝く星が一際明るく光り、村に穏やかな夜が訪れたのだった。

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