街の片隅、薄暗い路地に沿った一軒の飲み屋があった。
そこに勤める吸という名の女子大生、佐藤美香は、毎晩表に立って酔客を待ち受けていた。
美香は明るい性格で、他人と接することが大好きだった。
しかし、彼女の心の奥には、一つの秘密が隠されていた。
それは、彼女が「元」から興味を持っている幽霊の話だった。
美香は小さい頃から、町に伝わる怖い話を耳にするたび、その詳細を記憶に留めることを楽しんでいた。
しかし、彼女が特に興味を持っていたのは、町の中心にある広場にまつわる噂だった。
その場所には、かつて若い娘が残した思いのために、彼女の記憶が「継」承されているという伝説があった。
美香はその話を聞くたびに、何かが彼女の心を惹きつけてやまなかった。
ある晩、仕事を終えた美香は、路地を抜けて帰る途中、不意に足を止めた。
広場に何か光るものが見える。
それは、まるで自分を呼んでいるかのように瞬いていた。
吸い込まれるように近づくと、その光は誰かの姿に変わった。
彼女の目の前には、美しい和服をまとった女性の霊が立っていた。
驚きと好奇心が入り混じりながら、美香はその女性に尋ねた。
「あなたは…誰ですか？」
女性は、美香に微笑みかけながら言った。
「私は陽子。この広場で命を落とした。私の思い出は、ここに残っている。」
美香は言葉に詰まりながらも、彼女の言葉に耳を傾けた。
陽子は、自らの悲劇を語り始める。
「元々、私はこの町で愛を育んでいた。しかし、ある日、愛する人に裏切られ、絶望の中でこの場所で命を絶ったの。」
その言葉を聞いた美香は、思わず息を飲んだ。
彼女は、陽子が抱えた「れ」を感じ取り、自分の存在が彼女の悲しみを少しでも和らげられたらと祈った。
その瞬間、陽子の表情が少し明るくなり、次の言葉を続けた。
「私の記憶は、ここにいる人々に引き継がれる。そして、あなたのような優しい心を持った人に会うたびに、私は少しだけ楽になれるの。」
美香は、陽子の助けになることを決意した。
「私があなたの話を他の人に伝えることで、あなたの存在を忘れさせないようにします。あなたの思いを、もっと多くの人に知ってもらいましょう。」
その言葉が響くと、陽子の体は徐々に光に包まれ、彼女の存在が少しずつ薄れていくのがわかった。
「ありがとう、貴女には本当に感謝している。私の思い出が語り継がれることを願っているわ。」
その後、美香は何度も街の人々に陽子の話をして回った。
そのおかげで、陽子の存在を知った多くの人々は、彼女の伝説を掘り起こし、町の歴史にその名を刻むことができた。
時が経ち、いつしか美香は陽子の語り手として知られるようになっていた。
彼女は毎晩、広場の近くで飲み屋を開き、訪れる人々に陽子の物語を語り続ける。
それは美香自身にとっても、陽子との約束を果たすための手段でもあった。
そして、ある晩、美香が語りを終えた時、月明かりの下でふと振り返った。
ほんの一瞬、白い和服を纏った陽子の姿が眩い光に変わり、彼女の優しい微笑みを残していた。
その瞬間、美香は確信した。
陽子の記憶は彼女の心の中だけでなく、これからも町として生き続け、誰かの心にも「憶」えられ続けるのだと。
そうして、美香は心の底から微笑み、陽子との一瞬の再会を、永遠に忘れないと誓った。
