「忘却の篭」

篭の中には、かつての仲間たちの思い出が詰まっていた。
この篭は、静かな山奥にある小さな古びた神社の一角に置かれていた。
神社には、大きな杉の木が一本立っており、その根元には不気味な雰囲気が漂っている。
地元の人々は、この神社の周辺には絶対に近寄らないようにしていたが、好奇心が強いアキラは、周囲の噂を耳にしながらも、仲間と一緒に肝試しに訪れることにした。

その日は月明かりが明るく、空には星が瞬いていた。
アキラは、友人のサトシとミワと共に神社を訪れた。
二人はアキラを鼓舞しつつ、恐々と神社へ足を踏み入れた。
篭が置かれた場所に辿り着くと、篭は老朽化しており、まるで誰かの囁きが聞こえてきそうなほど不気味だった。
篭の中を覗き込むと、古びた人形や様々な形の石が置かれていた。

「これ、何だろう?」サトシが不思議そうに言った。
アキラは篭の中を見つめ、何か引き寄せられるように感じた。
すると、その瞬間、ミワが急に顔色を変えた。
「アキラ、何か見える!」

アキラも思わず目を凝らすと、篭のすぐ横に立っている無数の影が目に入り込んだ。
その影は、まるで怨念のような形を取りつつ、彼らを見つめていた。
そこにいるはずのない仲間たちの顔映りが、ひどく歪んでいた。
突然、冷たい風が吹き抜け、その場の空気が一変した。
アキラの心臓は、絶え間ない恐怖で高鳴っていた。

「もう帰ろう!」とミワが叫ぶ。
しかし、アキラはその場から動けなかった。
篭の中から、不気味な声が耳に響いてきた。
「助けて…私たちを忘れないで…」

その声は彼らの仲間、カズマの声だった。
カズマは数年前、ここで行方不明になった少年で、何者かに連れ去られたという噂が広まっていた。
アキラは身動きが取れないまま、心の中で彼のことを思い出していた。
カズマと過ごした日々、共に遊んだ思い出が鮮明に甦る。

「私たちの実を、篭に納めて!」という声が再び響いた。
アキラは何かに取り憑かれたように、篭に近づき、手にした小石を投げ入れた。
しかし、その瞬間、篭の中から深い黒い影が溢れ出し、周囲を包み込んだ。
サトシとミワは恐怖で叫び声をあげ、後ずさりした。

「カズマ、助けてあげる!」アキラは必死に自分の気持ちを叫んだ。
しかし、影はどんどん彼らを飲み込んでいく。
すると、篭から引き上げられるかのようにアキラの体が重くなり、まるで誰かに引き寄せられるような感覚に襲われた。
仲間たちの声が響く中、彼は意識を失った。

目が覚めると、アキラは神社の近くで目を覚ました。
しかし、何かが違った。
サトシもミワも姿を消していた。
彼は自分の手を見ると、篭に放り込んだ小石の一つが握られていることに気づいた。
体の奥から、何かが彼を求めているように痛みを伴い、胸の中で未練が渦巻いているのを感じた。

それ以来、彼はあの篭に何度も足を運んだ。
仲間を失った思い出が、篭に繋がる何かを消せないからだった。
カズマの思念は次第に彼に寄り添い、彼の中で生き続けた。
篭の影は彼の遠くから見守り、彼はなぜか、その影と共にいる運命を受け入れるようになっていた。
彼はもう二度と、あの篭を離れることができなかった。

タイトルとURLをコピーしました