「忘却の神社」

場は、かつて賑わっていた小さな町のはずれに位置する、朽ち果てた古い神社。
その神社は、不気味な雰囲気に包まれ、誰もが近寄りたがらない場所だった。
ここには、過去に起きた出来事が多くの人々の記憶に刻まれており、その記憶がこの場所を支配していたのだ。
主人公の探(さがし)は、若い頃から自称「心霊探偵」として名を馳せていたが、初めての大きな失敗を抱えていた。
彼は、以前依頼された心霊現象の解決に向き合い、しかし、その依頼の主であった高校生の友人が音信不通になってしまったのだ。

彼は、その失踪事件の謎を解くために、再び声をかけられた。
ある町の人々がその神社の近くで、不可解な現象が続いているというのだ。
中でも、失踪した彼の友人が神社の近くにいたという噂が立つと、探は決心した。
自分の失敗を取り戻すため、その神社の調査を行うことにしたのだ。

神社の周囲には、かつての神聖さを失った木々が生い茂り、静寂が支配していた。
探は、その沈黙に圧倒されながらも、踏み入った。
彼の心には、過去の記憶が浮かんでいた。
友人との楽しかった思い出が彼の胸を締め付ける。
「彼を助けたい」と強く思った。

神社の中に入ると、少しずつ異様な気配が漂っていた。
中庭には、神様の御神体があるべき場所には無惨にも崩れた石が散乱し、様々な形の蔦が絡みついていた。
探は、彼の心の内側に響く声を感じ取りながら、ゆっくりとその周囲を探っていった。
その時、彼の耳に風に乗ってきたかすかな声が聞こえた。
「助けて…」それは、彼の友人の声だった。

彼は驚きながらも、その声に導かれるように進んでいく。
声が響く先には、薄暗い洞窟の入り口が目に飛び込んできた。
探の心に恐れが走ったが、同時に友人を救うための覚悟も固まっていた。
彼は洞窟の中へ足を踏み入れる。

洞窟の中は湿気を帯び、冷たい空気が肌に触れる。
探は、進むごとに声の存在を感じ続けたが、その声はますます絶望へと変わっていった「もう、戻れない…」彼の胸が苦しくなった。
その言葉の意味がわかりかけたとき、洞窟の奥で、薄暗い光が漏れていた。
探はその光に向かって進み始める。

しかし、中に入ると、彼が見たのは無数の顔。
彼の周囲には、かつての町の住人たちだった。
彼らは憶えている、少しずつ周囲に彼を取り囲むように薄れていく。
それはまるで、彼が解決すべきだった現象が彼の目の前で暴れ出しているようだった。
探は逃げようとするも、目には見えない力でその場に縛られてしまった。

「私たちを忘れないで…」その声は、ついに探の耳に明確に響く。
彼はその声から逃れることができず、自分自身もまた彼らの一部になってしまうことに気づく。
彼の心の奥底にある恐怖が生き生きと目を覚まし、ついに彼は勇気を振り絞った。
「私は、忘れない。必ずあなたたちを助ける!」彼の心は奮い立ったが、同時にその言葉が彼自身の敗北を意味していることにも気づいていた。
その瞬間、洞窟が激しく揺れ始め、彼の周囲にいる顔が急に消えていった。

探は、その場から何とか逃げ出すと、外に出た。
彼は再び神社の静けさを感じながら、これまでの失敗を思い知らされていた。
結局、友人はその神社の神々に迷わされ、彼自身もまたその懐の中に生き続ける運命を背負っていた。
しかし、探はただ一つ、彼が感じた記憶の強さを抱きしめながら、新しい道を探し続ける決意を固めたのだった。
それは過去の敗北から立ち上がるための、また別の戦いの始まりでもあった。

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