「忘却の影、間の宮」

静まり返った神社、そこには遠い過去からの秘められた物語が存在した。
人々はその場所を「間の宮」と呼び、神聖視していた。
しかし、最近では訪れる者も少なくなり、古びた宮は静寂に包まれていた。

その神社の近くに住む女性、深山遥は、幼い頃からその宮に強い興味を抱いていた。
彼女は、神社の奥に隠された何かがあると感じていた。
ある晩、彼女は月明かりに照らされた間の宮を訪れ、周囲の静けさに包まれた。
心臓が高鳴り、一歩一歩と足を進める。
奥の鳥居をくぐり、社殿の前にたどり着くと、そこで異様な気配を感じた。

社殿の中には、誰も居ないはずなのに、ぼんやりと光る霊的な影が見えた。
遙は、恐怖と好奇心が交錯した。
しかし、何か引き寄せられるようにして、その影に近づいていった。
その瞬間、ふわっと消えた影は、彼女の目の前に現れた。
それは、かつてこの地に住んでいたと言われる女性の霊だった。

「あなたは、私の願いを聞いてくれるか?」と、女性の霊は囁いた。

遥は震えながら答えた。
「願い…?」

「私は、この宮の守り神だった。しかし、長い時の間に、私の存在は人々に忘れ去られ、今ではただの影となってしまった。私を思い出してくれる人が必要なのだ。」

遥はその言葉の意味を理解する。
影は、光の当たらない闇に消されてしまう存在だったのだ。
そして、彼女がこの神社を訪れたのは、その影を呼び戻すための運命だったのかもしれない。

「どうすればあなたを思い出させることができるの?」と遥は尋ねる。

霊は悲しそうに微笑み、こう語った。
「この間の宮に私の物語を語り継いでほしい。私が生きていた時代のこと、そして私が大切にしていた場所や人々のことを、失われた記憶を取り戻すために。」

遥は決心した。
彼女は毎日、神社を訪れ、その霊の物語を風に乗せて語った。
彼女が語る物語は、時に人々の心を打ち、時に感動を呼び起こした。
次第に、周囲の住人たちも神社に集まるようになり、間の宮の存在が再び注目されるようになった。

しかし、その現象には代償があった。
遥が霊の物語を語るたびに、彼女自身の存在が薄くなっていくのを感じた。
まるで彼女の存在もまた、影のように消えていくかのようだった。

ある晩、遥は社殿の前に座り、最後の物語を語ることを決意した。
「私は、この宮を永遠に守るから、消えてしまわないでほしい。私の思いを、感じてほしい。」

その瞬間、彼女の声が強く響いた。
霊は喜びに満ちた表情で消えていき、彼女の存在は一層薄れていく。
しかし、彼女たちの想いは、周囲の空気に満ち満ちていた。

遥が消えると同時に、宮の周囲には人々が集まり、その神秘な空気の中で彼女の物語が語り継がれることとなった。
深山遥の記憶は、影のように消え去ったかもしれないが、彼女の想いは間の宮に宿り、永遠に続く物語となった。

人々は、今でも間の宮を訪れる。
そして、訪れる者は耳を澄ませ、遥の想い、そして消えた女性の霊の存在を感じることができると信じていた。
彼女たちの物語は、風に乗って今でも語り継がれているのだ。

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