深夜の街角、実家の近くにあった古びた「り」の名がついた廃屋がある。
多くの人が訪れなくなったその場所は、子供の頃に遊び場として使っていた思い出があるが、今や誰も近寄りたがらない。
その理由は、実際に起こった恐ろしい出来事が噂されているからだった。
その廃屋には「た」と呼ばれる一人の青年が住んでいた。
彼は幼少期から周囲に馴染むことができない内向的な性格で、家族を早くに失った彼にとって、この廃屋は唯一の避難所だった。
しかし、そこには毎晩奇妙な現象が起こり、彼の精神は徐々に蝕まれていった。
夜中、彼は誰かが自分の名前を呼ぶ声を聞くことが多かった。
「た…た…」その声は微かに、薄暗い廊下の奥から響いてくる。
どこか懐かしい響きを持つその声に心惹かれながらも、彼は自分の恐怖に打ち勝つことができなかった。
数か月が過ぎ、彼の心身の状態は悪化の一途を辿った。
「現実が壊れていく」と感じた彼は、誰かに助けを求めることもできず、ただ日が経つのを待つだけだった。
自分の心の中の混乱が、周囲の現実をも歪めているのではないか、そう思い始めたのだ。
霊的な何かが彼を狙っているかのような感覚に、日々追い詰められる。
そんなある晩、彼は意を決して廃屋を離れる決断をすることにした。
しかし、その時にふと思い出したのが、子供のころに遊び友達と一緒に作った「再開する約束」だった。
彼らは夢中になって作った宝物、壊れたおもちゃの欠片や古いガラス細工。
大切にしていたそれらは今や土に埋もれているのではないかと思った。
「物を見つけに行こう」と、自身の記憶を頼りに再び廃屋の中に入ることになった。
「破けたものを探し出し、新たな自分に繋がるために」と心に決め、暗闇の中を進んだ。
だが、廃屋の中は不気味で、彼の動きに合わせて響く何かがあった。
彼は深呼吸をして、懐中電灯を頼りに造りかけの遊び場へと足を運ぶ。
その瞬間、彼は不意に目の前に立っていたのは、かつて遊んでいた友達たちの幻影だった。
彼らは白い霊であり、自分を取り囲むように立っていた。
「忘れられた過去を思い出せ」と、その声は囁いていた。
彼は恐怖に震えながらも、彼らの姿をじっと見つめた。
すると、友達たちが彼に向かって両手を広げ、「再び心を開いて！」と叫んだ。
その瞬間、彼の心の奥で埋もれていた感情が一気に弾けた。
「気づけなかった自分に、別れを告げるんだ」と彼は悟った。
友達の呼びかけは彼の心を奮い立たせ、彼が抱えていた孤独から解放するための道しるべだった。
「破壊ではなく、再生だ」と内なる声が響き、彼は目の前の幻影たちに心の奥から感謝を伝えた。
家族を失い、過去を切り捨てることで逃げ続けていた彼は、真実を受け入れる勇気を持てた。
数時間後、朝日が廃屋を照らし出す。
彼は自分の人生を取り戻すため、過去を認め、心を開く準備ができていた。
その日を境に、彼の中の恐怖は少しずつ薄まり、かつての友達たちの笑顔を思い出すことができるようになった。
すべては「り」の名がつく古い廃屋での出来事が、彼に新たな道を示したからだった。
