修は若い頃に両親を事故で失い、その思い出に囚われていた。
彼が育った家は、いつの間にか空き家となり、近所の人々はそれを「呪われた屋敷」と呼ぶようになっていた。
しかし、修はその家に特別な思いを抱いていた。
彼にとって、その場所は再び両親に会うことができる唯一の場所だと信じていたのだ。
ある日、修は勇気を振り絞り、育った家に足を運ぶことに決めた。
彼の心は、懐かしさと不安で揺れていた。
家の周囲は鬱蒼とした木々に囲まれ、侵入者を拒むように感じられた。
入口の扉はさびつき、開かずの扉のように見えたが、どうにかして力を込めて押し開けると、久しぶりにその家の中に入ることができた。
屋内は思い出に浸るには良い環境で、時が止まったような静寂が広がっていた。
修は家の中をゆっくりと歩き回り、特に両親の部屋に向かうことにした。
そこには、かつて家族で過ごした思い出の品々が散乱していた。
両親の笑顔の写った写真や、温かい手のぬくもりを感じるお気に入りのぬいぐるみもあった。
修は、その中の一つを手に取った。
その瞬間、どこからか微かな声が聞こえたような気がした。
「修…」それは、はっきりとした声ではなく、風に乗ってかすかに耳に入り込んできたかのようだった。
不安を感じつつも、声の方へ鋭く耳を傾けると、次第にその声は子供の頃の母親のものに似ていることに気づいた。
「お母さん?」修はつぶやいた。
自分がなぜこんなことを言っているのかわからなかったが、心の奥底から出てきた感情だった。
すると、周囲の空気が一瞬変わった。
特に修の部屋の窓が急に開き、風が流れ込み、彼の体を包み込むように感じた。
そして、その窓から差し込んできた光の中に、母親の姿がちらりと浮かんだ。
「私を、忘れてしまったの…?」母の声が再び響いた。
修は思わず涙を流す。
彼の心にずっと抱かれていた喪失感が、母の出現によって一瞬で崩れ去った。
母は微笑みながら、繊細な手で修を招くように手を差し伸べていた。
「戻ってきてくれたのね」と彼女は続けた。
それは夢のような光景だったが、何か不気味な感じもした。
修はその手を取ることに躊躇いながらも、母の温もりを求めるように少しずつ近づいていった。
その瞬間、家の中の温もりは一変した。
せっかく戻ってきたと思った瞬間、冷たい風が吹き、おどろおどろしい音が響き渡る。
修は恐怖に駆られ、その場から逃げようとしたが、まるで动けないかのように足がすくんでしまった。
耳元で無数の声が聞こえてくる。
「私のことを忘れないで…」「帰らないで…」
修はその瞬間、急に目が覚めた。
周囲はdarknessに包まれていて、自分が実際には目を覚ましていないのではないかという不安がよぎった。
そして、再び目を閉じ、夢の続きを求めるかのように深く眠りに落ちた。
翌日、修は目を覚まし、体が異常に重く感じた。
自分の周囲に何が起こっているのか全くわからなかったが、家が静まり返っていることに気づいた。
心に響く母の声が、まだ消えないままで残響しているようだった。
「忘れてはいけない、私たちの思いを…」
そのまま彼は家を出ることができず、日が経つにつれて、自分がどこにいるのか、誰なのかも分からない状態に陥ってしまった。
ただ、彼の心の中には、不気味なまでに残った母の愛情と、同時に解放されない宿命がどんどん重くのしかかっていった。
再び記憶の中で交わした思い出は、彼を大いなる恐怖へと飲み込んでいくのだった。