静かな田園の外れにある園には、長い間、人の姿がほとんど見えなかった。
そこは、かつて子どもたちの笑い声で賑わっていた場所であり、今はただの廃園として忘れ去られていた。
しかし、村人たちの間では、その園が持つ「闇の現象」が静かに語り継がれていた。
ある日、大学進学を果たした優実は、夏休みを利用して故郷に帰ることにした。
彼女は、久しぶりに自分が育った村を訪れることを楽しみにしていたが、心のどこかで不安を感じていた。
その不安の原因は、かつて彼女が遊んだ園への謎めいた恐れだった。
「友達と一緒に行こう」優実はそう思いながら、ため息をついた。
結局、彼女は一人でその園に足を向けることにした。
夕方の薄明かりの中、優実は園のゲートを越えて踏み込んだ。
周囲は静まり返り、時間が止まったように感じられた。
子どもたちの遊ぶ声は遠く、ただ風の音だけが耳に残る。
園の奥に進むにつれて、レトロな遊具や朽ちたベンチが目に入った。
心の中の不安が再び顔を出し、優実は自分の心に問いかけた。
「本当に来て良かったのか?」そんな時、ふと目の前に誰かの影が現れた。
「助けて…」その声は弱々しく、耳にこだました。
優実は驚き、後ろを振り向くが、誰もいない。
心臓が高鳴り、恐怖に身を震わせながらも声の主を探した。
何かが彼女を呼んでいる。
優実は、その声の導きに従って進むことにした。
声の元は、かつて遊び場だった場所に近づいた時、目に留まった。
その場には、一人の少年が立っていた。
彼の名は健斗。
優実の少し年下の幼馴染だった。
彼は、どこか薄暗い雰囲気をまといながら、動かないまま立ち尽くしていた。
「健斗…?どうしたの?」優実は彼に声をかけた。
しかし彼は答えてはくれなかった。
彼の目は虚ろで、まるで何かに囚われているようだった。
優実は、彼の肩に手を置きながら、顔を近づけた。
「早くここから出よう、みんな心配しているよ!」
健斗はゆっくりと振り返り、優実に目を向けた。
「それができなくなったんだ…」彼は呼吸を整えるように淡々と言った。
「ここにいると、失ってしまう…ずっと孤独なんだ。」
優実は、その言葉が何を意味するのか分からなかった。
「何を失うって?」「生…人としての生…」健斗は小さく呟いた。
優実の胸が締め付けられる。
本当は、彼は救いを求めていたのだ。
「私は、何とかなるよ。必ず助けてあげるから。」
優実はその言葉を口にした瞬間、園の周りが暗闇に包まれた。
彼女の周りが急に静まり返り、健斗の姿が徐々に薄れていく。
「優実、お願い…私を忘れないで。生きていることを忘れないで…」その言葉が、彼の最後の言葉かのように響いた。
彼女は恐怖に駆られ、必死で手を伸ばした。
しかし、健斗は完全に消え去ってしまった。
優実は、彼が訴えた心の叫びが、何か重要な意味を持っていると理解した。
彼は彼女に、過去の記憶を取り戻し、彼女自身の生を切り開いて欲しかったのだ。
その瞬間、優実は決心した。
彼女は自分の心の奥底に突き刺さっていた孤独や後悔を、もう二度と忘れない。
彼女は村を離れても、健斗の声を忘れずに前に進むことを誓った。
園を後にしながら、健斗の存在を心に焼き付け、彼の救いを自分自身のことで生かそうと決意したのだった。