夜の静寂が終わりを告げる深い闇の中、ひときわ静けさの漂う古びた墓地。
それは、町外れに位置し、長い間、忘れ去られた場所だった。
そこに埋まる人々の名も、今や誰にも思い出されることもない。
そんな墓地の片隅に、かつて若き日に愛した人々を思い続ける霊、静香がいた。
彼女は生前、安らぎを求めて数多の人々の冥福を祈り、心から愛していた。
しかし、彼女が亡くなった後、その愛は踏みにじられ、静香は未練を抱えたまま成仏することができなかった。
ある日、町の若者たちが肝試しのためにこの墓地を訪れることになった。
その中には、少し口の悪い裕樹と、いつも明るい性格の美咲がいた。
裕樹は友人たちに、「ここには霊が出るって聞いたことあるか?」と、話の種にした。
「本当に出るとしたら、どんな霊なんだろうね?」と美咲が興味を持ち、彼女の顔に好奇心が浮かんだ。
若者たちは少し緊張しながらも、この暗がりの中を進んでいく。
しばらくして、裕樹が急に立ち止まった。
「ここはこの辺じゃないか?噂の旧墓じゃあありゃしないか。」彼は隣の墓の前に指をさした。
その墓石には、墓主の名前がかすかに彫られていた。
「静香」と書かれた字を見つけた瞬間、若者たちはわずかな不安に襲われた。
そのとき、突如として冷たい風が吹き、周囲の空気が変わった。
美咲は「何かいる……!」と息を飲み込んだ。
床に落ちていた枯れ葉がひらりと舞い上がり、墓石の周りを渦を巻くように回り始めた。
隣に立っていた裕樹は、縁起でもないことを考え、慌てて逃げ出そうとした。
すると、静香の霊が現れた。
彼女は淡い白色の着物を纏い、両手を広げたまま、優しげな表情を浮かべている。
だが、その目にはどこか悲しみが宿り、人々を見つめていた。
「あなた……たち、誰なの……?」霊の声は、風に乗って響くような響きを持っていた。
裕樹は恐怖のあまり、後ずさりした。
そして、彼は思わず「静香って誰だよ!俺たちはただの肝試しなんだから、お前なんかどうでもいいんだ!」と叫んでしまった。
その瞬間、静香の表情が一変した。
久しく抱えていた悲しみが、静香の心の奥底から溢れ出るように見えた。
「なぜ……私を忘れたの……?」彼女の声は悲しげで、怨念にも似た感情が混じり込んでいた。
裕樹は恐怖に耐えきれず、その場から逃げ出したが、静香の霊はその彼の心に深く突き刺さる影を残した。
やがて、美咲も裕樹を追いかけようとしたが、静香は彼女の目を捉えた。
「あなたも、私を忘れるの……?」その目に、同情の念を感じた美咲は身体が動かなくなり、静香の近くに立ち尽くした。
静香は、堕ちていく淵に立たされた美咲の心を見透かすかのように言った。
「私の孤独を一緒に感じませんか?あなたには、私の思いがわかるでしょう?」彼女の声は、まるで引き込まれるように美咲の心の奥深く響き、彼女は静香の悲しみを理解できるのではないかという錯覚に陥った。
裕樹の中の意義が崩れていくが、二人の心の底にある「愛」は強く結束し、今や静香の世界と繋がろうとしていた。
美咲は恐怖と同時に、静香の想いに同調していく感覚に襲われた。
やがて、静香の霊が彼女の傍に近づくと、その温もりを感じた美咲は言った。
「あなたの悲しみ、私も受け止めるわ。」静香の目が優しく輝いた瞬間、彼女の魂への堕落が始まった。
その後、夜が明けると、墓地には静まり返った静寂が訪れていた。
裕樹は、美咲を探し続けていたが、彼女はどこにも見当たらなかった。
彼の心には静香の影が刻み込まれていったのだ。
村人たちはその後、美咲を見つけることはできなかった。
彼女の名前は、静香の墓と共に時を忘れた場所に埋もれてしまったのである。
夜の闇の中、静香の呪いは新たな青春の影を求めて待ち続けているという。