「忘れ去られた記憶の図書館」

又は、かつて賑わっていた町の片隅に佇む、朽ちた古い図書館のそばで生まれた。
町は人々の生活の記憶がうっすらと残っているが、今はすっかり人影が消え、古びた本たちだけが静かに運命を待っている。
又は、無類の読書家で、自らもその図書館の常連だった。
彼女は、忘れ去られた書物の中にこそ、何か真実があるのではないか、と密かに信じていた。

ある晩、又は図書館に残る最後の利用客として、人気のない書架の間を彷徨っていた。
月明かりが薄く差し込む中、彼女は一冊の壊れた背表紙の本を見つけた。
「真実の記」と題されたその書物は、所々が破れており、文字もかすれている。
しかし、何か引き寄せられるような感覚が彼女をその本のページへと導いた。

ページをめくると、そこにはかつてこの町に住んでいた人々の名前と、その人たちが抱えていた悩み、秘密、そして最期の瞬間が記されていた。
又は読み進めるうちに、心の中に奇妙な感覚が広がった。
「この町は、何か変だ…」その言葉が彼女の心に染み込んだ。
まるで、この本が町自体の記憶を映し出しているかのようだった。

すると、その瞬間、図書館の空気が重くなり、周囲の光がぼやけ始めた。
彼女は目を背けたくなったが、何かが彼女の意識を引き留めた。
彼女の目の前に、一つの幻影が現れた。
それは、この本に記された人物の中の一人で、昔の町の住人の姿だった。
彼は恨みのこもった目で又を見つめ、口を開いた。
「真実を知る者よ、我々の思いを感じ取れ…」

又はその言葉に戸惑いながらも、心の中で彼らの執念を感じ取った。
彼女はその瞬間、自身の心の奥底に潜む「真実」が、彼女が知らない何かであることを理解した。
この町には、長い間解決できない何かがあったのだ。
又はその感覚に心を貫かれながら、再び本に目を戻した。

読み進めるにつれ、彼女はさまざまな人々の記憶を目にした。
ある者は裏切られ、またある者は愛する者を失い、思いを残したまま、悲しみに満ちた最期を迎えていた。
彼らの悔いは、真実を語る言葉となってこの本に封じ込められ、そして、この図書館の中で永遠に終わったかのようだった。

やがて、又はその光景の中に飲み込まれ、別の次元に引き込まれていった。
彼女は過去の記憶を心に抱えたまま、悲しみや悔いの音に囲まれ、かつての町の街並みが果てしなく広がる幻影の中をさまよった。
彼女は人々の声を聞き、その想いを理解した。
そして、彼女自身の悔いもまた、彼らと同じであったことを認識した。

「真実は、記憶の中にあるのかもしれない…」又は心の中でそう呟きながら、新たな決断をする。
彼女はその思いを感じ取った瞬間、目の前の景色が変わり、自身の存在が再び図書館の空間へ戻されていった。

だが、彼女が見た光景は決して忘れられない。
図書館の中に溢れる過去の思いと真実は、彼女の心の深いところに根を下ろし続けた。
又は再び本を手に取ることはなかったが、その記憶は彼女を悩ませる影となり、町に刻まれた無数の「真実」を持ち続けているのだと感じた。

またその夜、又は図書館を後にしながら思った。
「この町には、私以外にも多くの人々の悔いが隠れている。私がその真実を知っていても、誰かに語ることはできないだろう…」そして、彼女の背後には今もなお静かに存在する、壊れた本の中の記憶が風に囁くように残されているのだった。

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