「忘れ去られた病院の少女」

大学生の健太は、友人たちとともに、廃墟となった古い病院を訪れることにした。
その場所は、何年も前にここで起きた事件のせいで立ち入り禁止となっていたが、興味本位でパーティを開こうということになった。
周りは厚い森に囲まれ、昼間でも不気味な空気が漂っていた。

病院に到着すると、彼らは廊下に沿って続く割れた窓や、かすんだ壁に残る血の痕跡に目を丸くした。
中に入ると、不気味な静寂が広がっていた。
数人の友人たちが携帯のライトを使って周囲を照らしながら、笑い声を上げていたが、健太だけは何かが違うと感じていた。
彼は、病院での何か恐ろしい出来事が、今もこの場所に影響を及ぼしているのではないかという不安を抱いていた。

「そんなことないよ、健太。ただの廃墟さ。面白がって残りの友人を驚かせようぜ!」と、友人の大輝が笑顔で言った。
健太は不安を振り切るようにして頷いたものの、胸の奥に潜む恐怖は消え去らなかった。

数時間後、午後8時を過ぎたあたり、健太たちは病室の一つに集まり、懐中電灯を囲んで座っていた。
そこで、突然、冷たい風が吹き抜け、窓が大きく鳴った。
健太の心臓は激しく鼓動し、友人たちの表情も一変した。
すると、壁の向こうから微かに声が聞こえてきた。
「助けて……」

みんなは顔を見合わせ、不安な気持ちが一気に高まった。
「誰かがいるんじゃないか?」「大丈夫、ただの幻聴だろ。」と、みんなが口々に言う中、健太だけは声の正体を確かめたいという思いに駆られた。
彼は一人、声を追いかけるように病棟の奥へと足を進めた。

その時だ。
目の前の壁が突然崩れ落ち、床に小さな少女が倒れているのが見えた。
白いドレスを着たその子は、健太の目を見上げ、泣きながら必死に手を伸ばしてきた。
「お願いします、助けて……」

健太は驚きと戸惑いに使い果たされた。
彼女の存在が本物であることを感じながらも、その目はどこか異様なものだった。
その場に立ち尽くしていると、後ろから友人たちの声が耳に入った。
「健太、何見てるんだ!」

彼は振り返り、友人たちを呼び寄せた。
しかし、その一瞬の隙に、少女は姿を消してしまった。
慌てて探そうとしたが、彼女の気配はどこにもなかった。
友人たちが代わる代わる叫んで叫んでいたが、その子を見つけることはできなかった。

急に外が暗くなり、周囲の森から異様な音が響いてきた。
彼らは恐怖に駆られ、急いで病院から出ようとした。
しかし、廊下は迷路のように入り組んでいて、次々に迷ってしまう。
健太の心は恐怖と混乱に包まれ、再びあの少女の夢について考えていた。
「彼女は何を望んでいるのか?」

結局、何とか病院を脱出した健太たちは、明るい外の空気にホッとしたが、心に深い傷跡を残していた。
その後、彼はあの少女が一体どんな存在なのか、何を伝えようとしていたのか、ずっと考え続けた。

数日後、友人たちと再び廃墟に戻った時、彼はもう一度あの少女に出会えるのではないかと希望を抱いた。
しかし、病院は静寂の中に沈んでいた。
健太はもう一度、彼女を呼びかけたが、返事はない。

その日から、健太は彼女の夢を繰り返し見るようになった。
彼女は無邪気で、どこか寂しげな笑顔を浮かべていた。
そして、その夢の中で健太は気づいた。
彼女はただ一人ぼっちで、誰にも助けてもらえずにいるのだと。

数ヶ月が経ったころ、健太は決心した。
この病院の秘密を解き明かし、少女の想いを伝えたいと。
彼は調査を始め、かつてこの病院で少女がどんな不幸に見舞われたのか、徐々に明らかになっていく。
そして、やがて彼の調査は、彼女がかつての精神科病棟に閉じ込められていたことを示していた。
彼女の悲劇が周囲の人々に理解されることを心から願い、周囲に伝えていくことが、健太に与えられた使命だった。
彼はその使命を果たすため、この世に生きている間、彼女の想いを繋いでいくことを誓った。

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