一つの小さな村が、かつて人々に賑わいをもたらしていた。
しかし、時が経つにつれて、その村は静まり返り、誰もその名を口にすることがなくなった。
村のはずれにある「秘」の神社には、不気味な伝説が語り継がれていた。
「元を忘れた者には、恐ろしい運命が訪れる」という、その言葉は村人たちの心に深く刻まれていた。
ある晩、不運にも若者の佐藤和樹は友人の高村健二と一緒にその村に足を踏み入れた。
好奇心に満ちた男たちは、村の伝説を確かめるべく、夜の闇に包まれた神社を目指した。
月明かりが彼らの道を照らし、どこか不気味な雰囲気が漂っていた。
神社に近づくにつれて、和樹の胸は不安でいっぱいになった。
「ねぇ、大丈夫かな?」彼は健二に聞いたが、彼の友人は無視して歩き続けた。
まるで何かに導かれるように。
神社は朽ち果てており、鳥居は傾き、社は崩れかけていた。
しかし、そこには何か神聖なものが感じられた。
和樹が神社の中を覗こうとした瞬間、背後からかすかな囁きが聞こえた。
「来ないで、来ないで……」
驚いた和樹は振り返った。
しかし、そこには誰もいなかった。
ただ冷たい風が彼の背を通り抜けていく。
彼は不気味さを感じ、逃げようと思ったが、健二はその場から動こうとしなかった。
「ワクワクするだろ? 何か会えるかもしれない。」
和樹は恐怖を抱えつつ、健二を引き止めた。
「これ以上近づくのは良くないよ!」彼は話しかけたが、健二はまるで耳に入っていない様子で、神社の奥へと進んでいった。
その時、突然暗闇から一人の白い女が現れた。
彼女は無表情で、まるで生気を失っているかのようだった。
和樹は後ずさりし、恐れを感じた。
「何が…どうなってるんだ?」彼は震えながら呟いた。
女は一歩ずつ彼に近づき、視線を向けた。
「元を忘れた者は、元に戻れない。」その声は子供のように高く響いた。
和樹は恐れで体が硬直した。
目の前の女性は、村の運命を握る存在なのかもしれない。
その時、健二も異変に気づいた。
女の言葉が健二の心に響いたのだ。
「行こう、和樹。ここから出よう!」
しかし、時既に遅し、健二は神社へと引き寄せられ、女の元へと進んでいく。
和樹は必死に友人を呼び止めた。
「待って、健二! やめて!」
すると、健二の目が虚ろになり、彼は女の前で立ち尽くした。
「この村は、元を忘れた者の呪い。」彼は言った。
その瞬間、和樹の心の中に恐れが広がった。
「元を忘れた者には、我が身が危ない。彼を解放してくれ!」和樹は女に向かって叫んだが、女は微動だにしない。
彼女の周りには、まるで影のような者たちが現れ、和樹を取り囲む。
彼は恐怖に駆られ、逃げ出そうとしたが、全ての出口は消えてしまった。
女は冷たい視線を彼に向け、「あなたもこちらへ来るのよ。恐れを抱く必要はない。」と囁いた。
和樹は恐れに震えながらも、手を差し伸べた。
「健二、戻ってこい! 私たちは元を大切にするべきなんだ!」彼の叫びは虚空に消えた。
その瞬間、神社の奥から声が響いた。
「忘れ去られた者の贖罪が必要だ。あなたが代わりに受けることになる。」
和樹は驚愕し、心の奥で何かが壊れる音がした。
彼は、自身が恐れに屈してはいけないことを悟った。
友を救い、村の呪いを解くためには、自らの恐怖を受け入れなければならない。
「私はあなたの呪縛に屈しない!」和樹は叫んだ。
その瞬間、女の表情が変わった。
彼女は微笑み、周囲の影も消え、健二が再び意識を取り戻した。
「和樹…君はどこにいる?」
和樹は手を伸ばし、友を引き寄せた。
その瞬間、神社の闇が解放され、彼らは息を呑むように立ち尽くした。
村には再び静けさが戻り、恐れと友情が交わる瞬間となった。
彼らは、決して忘れないという決意を胸に、村を後にするのだった。