「忘れ去られた教室の約束」

静まり返った校舎の中、薄暗い廊下を進む一人の女子生徒、名は美咲。
彼女は放課後に友人たちと肝試しをすることになり、心はドキドキしていた。
だが、肝試しの場所は、五年前に事故があったという廃校であった。
そこでは一人の生徒、健太が不慮の事故で命を失っていた。
そのため、廃校には健太の魂がさまよっているという噂が立っていたのだ。

美咲は友人たちと共に、夜の学校へと足を運んだ。
校門をくぐり、色あせた看板に「忘れ去られた場所」という文字が目に入る。
校舎は月明かりによって薄く照らされ、不気味な雰囲気をかもし出していた。
「本当に来ちゃったね」と友人の佐藤が言う。
「信じないけど、ちょっと怖いな」と美咲も同意した。

廊下を進むにつれ、彼女たちはますます緊張が高まっていった。
教室の扉がきしむ音が響き、冷たい風が吹き抜ける。
美咲は心臓が高鳴るのを感じながら、「どうする?やっぱり引き返そうか?」と呟いたが、友人たちは「せっかくだから、奥まで行こうよ」と彼女を励ました。

ついに三人は、事故が起きたという教室の前にたどり着いた。
扉はギシギシと音を立てて開く。
「行ってみよう」と言うと、佐藤と高橋は不安を感じながらも美咲の後に続いた。
教室の中は荒れ果て、かつての生徒たちの記憶を感じさせる物が散乱していた。
古びた机やイス、黒板には色の褪せたチョークの跡が残っていた。

その瞬間、教室の外から「る」とぼんやりした声が聞こえた。
「助けてくれ…る…」という囁きは、まるで誰かが助けを求めているようだった。
三人は一瞬目を合わせ、恐怖にかられた。
「行こう、ここには何もいない」と美咲が先へ進もうとしたが、友人の佐藤はふと立ち止まった。
彼の目が冷や汗をかくほど驚愕で見開かれていた。

「見て、そこに…」彼が指差した先には、薄暗い教室の隅に立つ人影があった。
その姿はまるで古いフィルムのようにぼやけていて、完全には見えなかったが、少しずつ近づいてくる。
「私は…あの時…」と声が聞こえ、彼らは動けなくなった。

「健太!?」と佐藤が言った。
「そうだ。俺だ…」その声は、確かに亡くなったはずの健太の声だった。
彼の目は虚ろで、まるで何かを求めているかのように見えた。
「助けてほしい。未練が消えない…この場所から出られないんだ…」

恐怖と興奮が入り混じった美咲は、何とかその場から逃げ出したい衝動に駆られた。
「私は貴方の友人だ、助ける方法を探すから…」と叫び、周りに目をやった。
しかし、健太はただ静かに佇んでいるだけだ。
「お願い、私を置いていかないで…」その言葉が頭に響く。

「美咲、行こう!」と高橋が引っ張り、彼女は意識を取り戻した。
しかし、心のどこかで健太の存在が気になっていた。
彼の魂は生きたままの未練に縛られ、永遠にこの場所から出られないのだと感じた。
美咲は一瞬立ち止まり、その目に映る健太の後ろ姿を見つめた。

その時、健太は静かに笑った。
「必ず戻ってきてくれ…」その声が耳の奥で消えかけた。
美咲は急いで廊下を駆け抜け、校舎の外に出た。
外にはまだ月が輝き、彼女の心中には健太の思いが残っていた。
彼女は誓った。
いつの日か、必ず健太の未練を解くために、彼の元に戻ろう、と。

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