ある町に、存という男が住んでいた。
存は平凡な日々を送っていたが、彼には秘密があった。
それは、人にあまり知られていない悪の力を持っているということだった。
彼はその力を、他者に危害を加えることのないよう、大切に隠していた。
だが、ある日、友人たちと安らぎの場所となっている古びた神社に向かった際、彼は耐えきれない興味に駆られた。
そこには、町に伝わる不思議な言い伝えがあった。
「人の思念を具現化する」と言われる、禁断の儀式が行える特別な場所だ。
存は友人たちにその話をしたが、皆は興味を示さなかった。
しかし、彼の心の奥に潜む悪の力が「やってみろ」と囁く。
夜になり、友人たちが帰宅した後、存は再び神社へ向かった。
月明かりの下、神社の境内には静寂だけが広がる。
存は心を落ち着け、儀式を始めた。
目を閉じ、深く呼吸をする。
彼は自分の中にある悪を具現化することを決意し、その思念を空に向かって放った。
その瞬間、気温が急激に下がり、周囲の空気が重くなった。
目を開けると、存の目の前には、異形の存在が立っていた。
それは、彼の内に秘めた悪が形を成したもの、まさに己の影だった。
影は彼をぎゅっと握りつけ、その無数の手が彼の思念を呑み込んでいく。
「お前は私を解放した。これが代償だ」と影は低く呟いた。
存は恐怖に震えた。
彼は指を指した先に、町の人々の姿を思い描いていた。
それは彼の友人たちであり、彼らは無邪気に笑いながら遊んでいた。
影はその思念を感知し、口を開いた。
「彼らを奪おう。お前の望み通りにしてやる」
存は抗ったが、強い力に引き寄せられる。
彼は再び思念を放ち、友人たちを救おうとした。
だが、その思念は逆に影に取り込まれていく。
存は深い絶望感に捕われ、どうすることもできなくなった。
影は存の心の隙間に入り込み、徐々に彼自身を蝕んでいった。
恐怖の中、存は逃げようとしたが、逃れることはできなかった。
影は彼を包み込み、次第に彼の存在をも消し去ってしまった。
その時、町では、存の友人たちが次々と行方不明になる事件が発生した。
誰もが保存のことを忘れていった。
彼の存在は人々の記憶から消え、ただ悪の影だけが町に留まっていた。
数か月後、また別の人間が神社に近づくと、自分の内に秘めた悪の力を解放することに興味を持ち、禁断の儀式を試みることになる。
しかし、彼もまた様々な思念に捕われ、存のように影に取り込まれていく。
町は、悪の影に支配され、新たな犠牲者を求め続ける。
存は今も、影となってその神社に佇んでいる。
彼の影は次の「人」を待ち望み、また新たな悪を生み出す。
町に住む人々は、存という男がかつてここにいたことを知る由もなく、ただ静かに日々を送る。
そして悪の力は、ますます強まるばかりだった。