裏の世界には、私たちの知ることのできない秘密が潜んでいる。
ある日、大学生の佐藤は、友人たちとともに肝試しをすることにした。
彼らは特に恐れたことのない若者たちで、怖い話を聞きながら裏の廃墟へ向かうことにしたのだ。
その廃墟は、数十年前に廃業した古い宿で、地元では「忘れ去られた宿」と呼ばれていた。
人が住まなくなってからというもの、奇妙な現象が相次ぎ、近寄る者は誰もいなかった。
しかし、好奇心旺盛な彼らは、その禁忌を破ることにした。
仲間の桜井は、特に肝試しが好きで、周りを盛り上げることに熱心だった。
薄暗い廃墟の中、彼らはさまざまな音を聞きながら進んでいく。
かすかな風の音、物音、そして何かが彼らを見ているような気配。
佐藤はその緊張感を楽しんでいたが、何かが彼の心をざわつかせた。
背筋がゾクゾクとし、思わず振り向くと、何もいないはずの背後に影が見えた気がする。
そのまま奥へ進むと、彼らは一室にたどり着いた。
実に薄暗い部屋で、壁には奇妙な文字が刻まれていた。
そこに何が書かれているのか理解できないが、その異様な雰囲気に桜井の目が輝いていた。
「これ、何かの儀式の跡じゃない?」とまるで興奮しているかのように語りかけた。
佐藤は、そんな桜井の様子を見て不安になったが、彼は強気のままだった。
その晩、彼らは肝試しを終え、自宅に帰った。
特に何事もなく、丸一日が終わるかと思われた。
しかし、佐藤の夢に彼の知らない女性が現れる。
「あなたは二度、私を裏切った」と彼女は低い声で囁いた。
まるで背筋が凍るような感覚。
何か不吉な夢だと感じつつ、目が覚めた彼は再び眠った。
数日後、友人たちとの集まりがあった。
その場で桜井は「最近、夢にあの宿が出てくる」と告白した。
彼は夢の中で、暗い廃墟の中に立っていて、目の前にある何かに誘われていた。
「俺、何かが呼んでいる気がする…」彼の言葉に、場が一気に静まり返った。
誰もが気づき、気味悪さを感じていた。
次の週、またしても佐藤は同じ夢を見る。
夢の中で女性は彼に向かって手を伸ばし、優しく微笑んでいる。
しかし、その笑みの裏には何か不気味なものが潜んでいた。
彼は起きた瞬間、自分の心臓がドクドクと振動していた。
どうしても気になり、再びあの廃墟へ行く決心をした。
友人たちに話したが、彼らは嫌がってついてこなかった。
桜井だけは何かに惹かれるようにして、一緒に行くと言った。
彼らは再び裏の宿へ向かった。
その夜、月明かりの中、二人はかすかな音を追いながら、再びあの部屋に進んだ。
そこで彼らは見つけた。
床の中央にあった小さなワイン瓶。
中には奇妙な液体が入っていた。
見知らぬ女性の声が耳元で響く。
「あなたたちは、私を忘れたの?」桜井はその声に引き寄せられるように、瓶に手を伸ばした。
突然、部屋の温度が下がり、冷気がジョーッと二人を包み込む。
「これはまずい…!」佐藤が叫ぶと、桜井の目が無表情になる。
彼は瓶を一気にあけてしまった。
すると、その瞬間、廃墟の周囲が揺れ、何かが彼らを取り巻く。
呪いの影に飲まれるように、二人はそのまま姿を消してしまった。
その後、彼らを探す者はいなかったが、数ヶ月後、学生たちの間で再び肝試しが話題に上がった。
「裏の宿に行く?」そんな言葉が交わされると、背筋が凍るような気配が村中に広がり、ひとつの伝説が静かに引き継がれるのだった。