夜が深まるにつれ、雨が静かに降り出した。
風が窓を叩きつける音が耳に響く中、浩一は自宅のリビングで一人、くすんだ古びた本を読みふけっていた。
彼の家は代々受け継がれてきた古いもので、その家自体が郊外の町の片隅に静かに佇んでいる。
時折、窓の外から聞こえる風の音が、浩一に何か不気味なものを感じさせた。
その夜、浩一はその本から目を離し、何気なしに部屋の隅に目を向けた。
そこには一枚の古い写真が飾られていた。
写真には、かつての家族全員が笑顔で写っている。
だが、浩一の目はその周りに映る気配に捕らわれた。
微かに光る目。
見知らぬ人物がそのまま長い間、彼をジッと見つめている気がした。
「気のせいか…」浩一は自分に言い聞かせ、視線を戻した。
しかし、窓を叩く風はますます強くなり、彼の心に不安を与える。
何かがこの家には潜んでいる。
それが長い間封じ込められていたとしても、浩一の直感が彼に警告していた。
夜が更ける頃、浩一は不安を抱えたまま、眠りにつくことにした。
しかし、不思議な夢を見た。
夢の中で、彼は自分の家の廊下に立っていた。
周囲には霧が立ち込め、まるで何かが彼を引き寄せるような感覚を覚えた。
その先には、一つの扉があった。
扉を開けると、そこには小さな部屋が広がっていた。
壁面には古びた絵画が飾られており、その中には無数の目が存在している。
一つ一つの目は、彼を見つめ、彼の動きを追っているようだった。
「どうしてここにいるんだ？」浩一は心の中で問いかけた。
それと同時に、冷たい手が彼の肩に触れた。
振り向くと、そこにはかつての家族の姿があったが、彼らの表情は不気味なほど無表情で、依然として浩一を見つめていた。
父が言った。
そして、他の家族もそれぞれの声で彼に言葉を投げかけた。
「私たちを忘れないで。」
目が覚めた浩一は、叩かれるような心臓の音に耳を疑った。
家の中は静まり返っていたが、何かが彼の心をざわつかせていた。
まるで、何かの限界が近づいているかのような感覚だ。
何度も家族の輪を壊してきた浩一は、自分がこの家を受け入れる決意をする必要があると思った。
彼は部屋の隅にある写真をもう一度見ることにした。
見つめるうちに、浩一は記憶の中の思い出と、目を合わせている人々の笑顔を思い出した。
そして、彼はただの思い出を超えて、それが現実のものだと感じ始めた。
だが、突然、部屋の温度が急激に下がった。
背筋に冷たいものが走り、浩一は後ろを振り向いた。
部屋の中には家族の姿は見えなかったが、彼が今まで見えなかった影が、薄暗い隅から彼を見つめ返していた。
「どうして私を求めるの？」浩一はその影に向かってひとりごちた。
沈黙が続き、彼はその影が自分を引き込もうとしていることを強く感じた。
彼の心には、家族が求めていたもの、彼自身が失いかけていた絆を取り戻すべきだという思いが渦巻いていた。
すると、突然、影が彼に向かって飛び出してきた。
それは、古びた家そのものの「声」だった。
浩一は反射的に後退ったが、影が彼の手を掴み、強く引き寄せる感覚を味わった。
その瞬間、浩一の頭の中は何かが壊れる音に満ちた。
彼の心の中にある家からの記憶がすべて蘇り、彼の心の奥底に埋もれていた思いが立ち現れた。
家族との絆、彼の場所。
それらが同時に彼の中で壊れ、再び形を成していく。
その夜、浩一はもう一度眠りについた。
次の日、彼は決意を固めて家の中のものを片付け始めた。
時折、自身の中で響く声を感じる。
家が彼を受け入れ、彼自身もまた、この家を大切に思っていることを実感するのだった。
これからは、家が彼を求め、浩一が家族の一員として、互いに支え合う存在となることを願った。
