「忘れ去られた呪いの影」

り、という小さな町には、古くから語り継がれている呪いの伝説があった。
それは、毎年この町の近くにある山の中で、決して誰にも助けを求めてはいけないというものだった。

ある晩、友人たちとキャンプに出かけた寺田健二は、その話を耳にした。
ゲーム感覚で恐怖体験を楽しむために、彼らは山の中で一晩を過ごすことに決めた。
皆は「本当に呪いなんてあるのか?」と笑いながら山の深くに入り込み、夜が更けるのを待った。

焚火を囲んで怖い話をしていると、健二の友人である佐藤美香が突然、何かに気づいたように立ち上がった。
「見て!あっちに人影がいる!」と彼女が指差した方向には、薄暗い林の中に一瞬だけ現れた青白い影があった。
皆は一瞬驚いたが、健二は「気のせいだよ、そんなことありえない」と冷静に返した。

しかし、周囲は次第に不気味な雰囲気に包まれていった。
風が冷たくなり、木々がざわめき始めたとき、健二はふと自分の身の回りを意識した。
彼が気付くと、友人たちの表情が変わっていた。
美香も含め、皆が何かに怯えている様子だった。

「何があったの?」と健二が問いかけると、突然、美香が泣き始めた。
「私、あの影を見たの…あれは…誰かの顔だった…」

その言葉を聞いた他の友人たちも一気に不安になり、火を囲んで話し合うことにした。
誰かに助けを求めるべきか、それともそのままここに留まるべきか、議論は平行線をたどった。

紫色の月明かりの下、彼らは少しの間静寂に包まれた。
しかし、突然、森の奥から不気味な声が響いた。
「助けて…助けて…」

皆は恐怖で顔を見合わせた。
健二は恐怖を押し殺し、「それはきっと誰かが迷っているだけだ」と言い張ったが、内心は冷や汗をかいていた。

その声が再び響くと、友人たちの間に動揺が走った。
「私、やっぱり帰りたい…」美香が口を開いた。
しかしキャンプ道具を置いてきているため、無理に山を下ることはできなかった。

その夜、健二は夢の中で見知らぬ女性に呼ばれて目を覚ました。
「助けて…呪いから逃げたいの…」その声に心を奪われ、夢の中で彼女が何を語っているのか、すべてを聞きたかった。

目覚めると、彼は仲間にその夢のことを話した。
「あの影はもしかしたら、呪いの犠牲者かもしれない」と彼は言ったが、なんとも言えぬ不安が彼の心を掴んでいた。

翌朝、全員が無事であることを願ったが、美香が突然姿を消していた。
キャンプ道具もそのままに、ただ彼女の椅子だけがそこに残されていた。
友人たちは混乱し、必死に美香を探したが、誰も彼女の姿を見ることはできなかった。

数日後、健二は顔見知りの僧侶に相談した。
「呪いから逃げられない理由は、助けを求めないからだ。この呪いは、身を持って語り続けている。しかし、その声を聞くことができるのは、生きている者だけだ。」

言葉の意味を理解した瞬間、彼はあの影の正体が美香であることを悟った。
彼女が助けを求めていたのだと、深く感じた。
あの女性の声、呪いの言葉が彼の心を震わせた。
その日から、健二は呪いの伝説を語り継いでいくことを選んだ。
それが、彼女のためにできる唯一のことだった。
彼は彼女の名を決して忘れず、その呪いから逃れる方法を探し続けることにした。

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