北の小さな町に位置する古びた駅があった。
その駅はかつて賑わっていたが、今では忘れ去られた存在となっていた。
ホームには朽ちたベンチが並び、コンクリートの壁には苔が生えている。
人々はこの場所を避け、訪れる者はほとんどいなかった。
しかし、ここには誰も知らない秘密が隠されていた。
先月、大学生の美咲は友人たちとともに、その駅の都市伝説を聞きつけて訪れることにした。
伝説によれば、駅のホームには、かつて自殺した若い女性の霊が現れるという。
そして、その霊は時折、別の誰かを救うために現れることがあるという。
美咲は、その話が本当かどうか確かめるために来たのだ。
日が沈むにつれ、駅は一層の静寂に包まれた。
彼女たちは懐中電灯を片手に、ホームを歩きながら、背筋が凍るような冷たい空気を感じた。
その時、友人の一人が急に声を上げた。
「ねえ、あそこの待合室に誰かいるみたい!」彼女が指さした先には、古びた待合室の窓があり、そこから微かな光が漏れているようだった。
不安を抱えつつも、美咲たちは待合室に近づいた。
しかし、誰もいない。
その光はどうやら、長年取り残されたデスクの上の埃をかぶったランプがかすかに灯っていただけだった。
それでも、彼女たちの心には奇妙な感覚が残っていた。
まるで、自分たちがここにいることを誰かが見ているかのような気配を感じていた。
ふと美咲は、先ほどの都市伝説を思い出した。
「もしかしたら、私たちが何かを知ってしまうのかもしれない。」彼女の心には興味と恐怖が交錯した。
そんな時、突然、耳元で囁くような声が聞こえた。
「助けて…」それはどこか遠くから響く声であり、彼女の心に直接響いていた。
「聞こえた?」美咲は他の友人たちに尋ねた。
しかし、彼女たちは不安そうに首を振るばかり。
そして、すぐに美咲は逃げ出したい衝動に駆られた。
だが、その声の主が何者なのかを知りたいという思いも強かった。
彼女は思い切って声の主を呼びかけた。
「あなたは誰?」すると、再び冷たい声が響いた。
「助けて、私はここから消えられない…」その言葉を聞いた瞬間、美咲の中で何かが動いた。
彼女は急に、その女性の苦しみを感じた。
待合室の幽霊は、深い悲しみに沈んでいるようだった。
美咲は彼女を救うために何ができるのかを考えた。
「どうすればあなたを助けられるの?」彼女は問いかけた。
すると、霊の姿がぼんやりと浮かび上がり、美咲の前に現れた。
彼女は美しい顔立ちをしていたが、その目は悲しみに満ちていた。
「私を忘れないで、とお願い…」霊は言った。
その瞬間、美咲は彼女がこの場所に囚われている理由を理解した。
彼女は誰にも気付かれずに死んでしまったため、忘れ去られることを恐れているのだ。
美咲は決意した。
「私はあなたを忘れない。あなたの名前を残すわ。」
その言葉を聞いた瞬間、霊の表情がわずかに和らいだ。
「そうすれば、私は救われるかもしれない。」彼女はそう囁き、再び薄れるようにして消えていった。
光が消え、駅は再び静寂に包まれた。
美咲は友人たちを呼び寄せ、今の出来事を話した。
彼女たちは恐怖で震えていたが、美咲の決意を見て、彼女を支持することにした。
数日後、彼女は町の掲示板にその女性の名前を残す記事を作ることにした。
駅は再び人々の記憶の中へと戻り、誰もがその女性の存在を思い出すこととなった。
美咲の勇気が、過去の悲しみを救ったのだ。
その駅も、再び名も知られぬ者たちの心の隅に刻まれることで、静かに彼女の願いを叶えていった。