かつて、静かな山際に佇む古びた家があった。
そこには、ある家族が住んでいたが、年月が経つにつれ、いつしかその家は忘れ去られることとなった。
周囲の住人たちはあまり近づかず、伝説のように語り継がれることが多かった。
「失われた情を探す者には、不気味な影がついて回る」と。
ある日、大学生の美咲は、その噂に興味を惹かれ、友人たちと共にその家を訪れることを決めた。
好奇心と恐れの入り混じった気持ちで、彼女たちはその家の前に立った。
外観は荒れ果て、ひび割れた壁が不気味に微笑むように見えた。
玄関のドアがきしむ音と共に開かれ、彼女たちは家の中に足を踏み入れた。
廊下の奥に進むにつれ、彼女たちの心の中に不穏な感情が芽生えていった。
目の前には昔の家具が散乱し、埃を被った写真が無惨に壁にかけられていた。
それは、家族の幸せそうな顔が描かれている一枚だったが、目だけが異様に光っているように感じられた。
何か他の存在が感じられる。
「何かおかしいね…」美咲が呟くと、他のメンバーも同意した。
しかし、彼女たちはそのまま家の奥に進み続けた。
やがて、彼女たちは一つの部屋にたどり着く。
そこには古びたピアノが置かれており、その上に一冊のノートが置かれていた。
ページをめくると、そこには家族の思い出や、失った愛についての切々とした物語が記されていた。
特に彼女の心を打ったのは、一つのエピソードだった。
それは、亡くなった娘が音楽を通じて生きる希望を見出そうとした話であり、家族が彼女を救おうとする様子が描かれていた。
しかし、娘の体調は次第に悪化し、その情熱は失われてしまったのだ。
彼女の死後、家族は互いに心の距離を置き、失った情を思い出すことすらできなくなってしまった。
美咲は切ない想像をしていた。
その家族は愛し合っていたからこそ、失った後の悲しみがはかり知れないものだったのだ。
彼女の脳裏には、家族の痛みが映し出され、まるで彼女自身がその一員になったように感じられた。
その時、背後から不気味な音が響いた。
「カタカタ」「カタカタ」と。
美咲は振り向いたが、何もなかった。
恐怖を感じながらも、それがどこから来るのかを探りたくなった。
そうしているうちに、仲間が彼女の肩をたたいてしまった。
「やめて、怖いから、早く外に出よう」と言った。
しかし、美咲はそのまま立ち尽くしていた。
もう一度ノートに目を向け、心の奥底で何かが叫んでいるような気がした。
「そばに来て」と。
その声はしっかりとした、娘の情熱や思いが読み取れるように思えた。
彼女はこの家族の物語を受け入れなければならないのかもしれないと実感した。
その瞬間、部屋の空気が変わり、目の前のピアノが自ら鳴り始めた。
楽しげなメロディーが流れるが、その音はどこか哀しみを帯びていた。
美咲の心は揺れ動き、迷った。
しかし、彼女はその音に心を傾け、失った情を再び感じ取るよう努めた。
すると、周囲が急に静まり返り、その瞬間、彼女の中に温かな感情が満ちてきた。
家族の情熱が彼女の心に宿るように感じた。
彼女は周囲の友人たちが不安で震えているのを見たが、今はもうその感情を阻むものは何もないと思った。
音楽は続き、家族の愛が彼女の心に降り注いでいた。
美咲は、失った情を大切にしなければならないと心から思った。
すると、ピアノのメロディーは次第に消えていき、静寂が戻ってきた。
彼女は、今まで感じることができなかった、失われた情の強さを知った。
この家が今でもその思いを宿していることを実感し、友人たちと共にその証を伝えることができるかもしれないと思った。
彼女の心の中には、新たな旅が待っていたのだった。