「忘れられた部室の約束」

官は、普段は真面目で温厚な性格の青年で、地方の役所に勤めていた。
彼の仕事の一部には、定期的に行われる建物の維持管理や点検が含まれていた。
そんなある日、彼は古びた公民館の部室で、以前には使用されていた形跡があるが、今では誰も訪れなくなった空間を見つけた。

その部室には、年月を感じさせる薄暗い壁や、埃をかぶった机と椅子が無造作に並んでいた。
官は、かつてここで活動をしていた学生たちの思い出に胸を締め付けられるような感覚を覚えた。
彼は、自分の職務の一環として、部室を調査することにした。

その晩、部室にあたる建物へ一人で戻った官は、何か気になることを感じていた。
部屋に入ると、空気が変わったように感じる。
静寂の中、彼は椅子に腰を下ろし、書類を確認していると、周囲の静けさが異様に響いてくる。

その瞬間、背後でかすかな声が聞こえた。
「ここは、私たちの場所…」官は驚いて振り返るも、誰もいない。
彼はその声の正体を確かめようと、心の中で静かに問いかけた。
「誰か、そこにいるのか?」

すると、影のように薄れた人物が、ぼんやりと浮かび上がった。
それはかつてこの部室で活動をしていた若者の一人だった。
彼は、かつての仲間たちとともに過ごした日々を懐かしむように、官の前に現れた。
「私たちは、ここで夢を育てていた。しかし、ある日、消えてしまった…」

官は、信じられない思いでその場に佇んでいた。
「どうして消えたのですか?」彼が尋ねると、影の青年は切なそうに首を下げ、「私たちは、この部室を守るためにここにいる。私たちの願いは、皆と共にいたいということ。だけど、時が経つにつれ、誰も訪れなくなった。部室は忘れさられた…」

官は、その言葉に胸が痛んだ。
彼は自分にできることがあるのではないかと思い、影に向かって言った。
「私は、あなたたちの思いを伝えるつもりです。もう一度、ここを明るい場所にしますから。」

影の青年は、少し驚いたように官を見つめた。
すると、彼は小さく頷いた。
「お願いだ、私たちの期待を裏切らないでほしい。この場所を、私たちの言い伝えで満たしてくれ。時間が経つとともに、私たちはこの部屋に現れるかもしれない。あなたのその言葉が、私たちを解放する力になる。」

それ以来、官は部室を再活性化させるために努めた。
彼は地域の人々に声をかけ、定期的にイベントを企画するようになった。
学生や住民たちが集まるようになり、この部室は徐々に賑わいを取り戻していった。

数か月後、官は再び部室に足を運んだ。
そこで彼は、かつて影として現れた青年たちの感謝の声を耳にした。
「私たちは、もう消えない。あなたのおかげで、私たちの夢は生き続ける。」

その言葉を聞いた官は、心の中に温かい感情が広がるのを感じた。
部室は再び活気を取り戻し、影たちの思いは新たな世代に受け継がれていくこととなった。
官は、その瞬間、自分がただの役所の青年でなく、過去と未来をつなぐ架け橋となったことを実感した。

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