「忘れられた道」

田舎の野原は、昼なお暗い雰囲気が漂っていた。
夏の終わり、ひとり残された浩二は、ふとした気まぐれから幼い頃に遊んだ村の外れの野原へ足を運んだ。
子供の頃の思い出のひとつでもある、今は朽ち果てた案山子が静かに立っているその場所は、どこか懐かしさを誘うのだった。

彼の家族は、代々この村に住んでいたが、浩二は都会への憧れから、村を離れた。
それ以来、この野原には行っていなかった。
空は薄曇り、その周囲にはただ草と風だけがあった。
自然の静けさが、かえって浩二の心に不穏な感覚を与える。
彼は、何かがあると感じた。

浩二は案山子の近くに立ち、開いた手を彼に向けると、自分と無関係のような気がしていた過去がよみがえってきた。
子供の頃、案山子は彼にとってただの玩具だった。
しかし今は、その姿がどこか神秘的で、怯えるような感情を芽生えさせた。

「なぜ、ここにいるのだろうか。」

浩二の心の中に、再び思い出が溢れかえってきた。
彼の友人たちは皆、村を離れて行ってしまい、彼一人だけが取り残されたような気持ちになった。
誰もいない寂しさが、ふと、彼の背筋を冷たくした。

何もかも忘れて帰ろうかと思ったその時、浩二はふと、不思議なことに気づいた。
案山子の周りに、何かの筋ができている。
彼はその筋に近づいた。
そこには、生い茂った草がかすかに割れ、長い間誰も通らなかった秘密の道のように見えた。
その道はどこか不気味で、違和感を覚える。

「進んでみようか。」

彼は思い切って進み始めた。
道は次第に狭まりながら、彼を野原の奥深くへと誘っていく。
その不安定な足取りの中で、鳥のさえずりも消え、何かが彼の背後に迫っているように感じた。

道の終わりには、彼が見たことのない光景が広がっていた。
そこには、古びた小屋があり、一見、無造作に捨て置かれているようだった。
しかし、その小屋からは微かに明かりが漏れていた。
好奇心に駆られた浩二は、不安を胸に小屋を目指す。

小屋の扉を開けると、目の前には不気味な光景が広がっていた。
壁には無数の顔が描かれ、目が彼を見つめているかのように感じられた。
過去の思い出、周囲の人々の顔がそれに重なり、彼の心を掴んだ。

「ここは…。」

浩二はその瞬間、誰かの声が聞こえた気がした。
それは彼の名前を呼んでいる。
しかしその声は、何もかもが過去のものとなり、再び彼を呼び寄せようとしている。
彼はその声に応えようとしたが、恐怖心がそれを阻止した。

「お前は帰りたいのか?それとも、ここに留まるのか?」その声は、再び浩二に問いかけてくる。
彼は心の中で自身に問いかけた。
戻りたい、しかしその先に待つ未知の世界にも興味がある。
彼は選択を迫られていた。

浩二は心を決めた。
「私は帰りたい。」その瞬間、彼の意識は急に揺れ動き、濃厚な闇に包まれた。

目が覚めたとき、彼は案山子の前に立っていた。
周囲には何も変わりはなく、ただ風が吹き抜けるだけだった。
不気味な声はもう聞こえなかった。
しかし、彼の心にはその存在が残っていた。
あの野原は、過去の自分に再び向き合わせるために開かれた場所だったのかもしれない。

浩二は、もう一度自分を見つめ直し、少し不安な気持ちを抱えながらも村へと戻っていった。
彼にとって大切な選択肢が、今後の人生における道しるべとなるのだと、薄っすらと感じながら…。

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