「忘れられた遊具の園」

まるで静寂を飲み込んでしまったかのようなこの園は、木々が生い茂り、陽の光すら入り込みにくい場所だった。
人が訪れることはほとんどなく、誰もがそのうちに潜む何かを恐れているようだった。
しかし、そんな園に興味を持ったのは、友人の佐藤だった。

「行ってみようよ、面白いよ」と彼女は言った。
明るい性格の佐藤は、心霊スポットや神秘的な場所への探検をいつも楽しんでいた。
しかし私、明美にとってはその魅力はさっぱり理解できなかった。
なぜなら、その園はかつて多くの子供たちが遊んだ場所だったが、ある日一人の子供が行方不明になり、そのまま二度と戻ってこなかったという噂があったからだ。

その日は、午後の遅い時間に彼女と一緒に園に向かった。
重たい空気が漂う中、私たちは手を繋いで歩き始めた。
周囲は静まり返り、まるで時間が止まったようだった。
木々の間から漏れる薄明かりは、どこか不気味さを醸し出している。

「ほら、あそこに行ってみよう!」と佐藤が指差したのは、一際古びた遊具がある場所だった。
いびつに錆びたブランコが揺れており、風もないのにまるで誰かが遊んでいるかのようだった。

「ねえ、怖くない?」私は少し不安になったが、佐藤は「何が怖いの?そういうのが面白いじゃん!」と笑った。
彼女の笑い声を聞いていると少し安心できたが、内心は緊張していた。

遊具の周りを歩いていると、ふと不気味な声が聞こえた。
「遊ぼうよ」と、どこからともなく聞こえるのだ。
その声に振り返ると、しかしそこには誰もいなかった。
私は不安が募っていく。
佐藤もまた、声に気付いたようだ。

「なんだろう、誰かいるのかな?」彼女は少し背筋を伸ばし、視線を遊具に向けた。

その時、突然ブランコが大きく揺れ、一瞬私たちはその動きに驚いて硬直した。
まるで誰かが本当に遊んでいるかのように。
佐藤が「本当に何かいるのかも」と呟いた。
私の心臓はドキドキと早鐘を打ち始めた。

「やっぱり帰ろうよ」と私が言うと、佐藤の表情が変わった。
「まだ何か起こるかもしれないじゃん、待ってみようよ。」彼女のその言葉が、私の恐怖を倍増させた。

そして、再び「遊ぼう」という声が聞こえた。
今度はより近くから、そして切なく響くような声だった。
その瞬間、佐藤は何かに目を奪われた様子で、呆然と立ち尽くした。

「明美、見て…」彼女が指差した先には、薄暗い中で一人の子供が見えた。
白いワンピースを着た女の子が、まるで私たちを待っているかのように微笑んでいる。
けれどもその目には、どこか冷たい光が宿っていた。

「あなたたちも遊びたいの?」その声は甘く、しかしどこかぞっとするものであった。
私は思わず後ずさりして、その場から逃げたかったが、佐藤は地面に立ち尽くしたまま、彼女に魅了されているかのようだった。

「佐藤、行こう!」私は彼女の手を引こうとしたが、何かが私の腕を掴む感触がした。
それは遊具の影から伸びてきた腕だった。
目を合わせた瞬間、全身が凍りつくような恐怖が駆け巡った。

「遊んでほしいの…」その声が木々の間から響く。
佐藤の目が光を失い、まるで彼女自身がその子供に奪われてしまったように見えた。
私は急いでその場を離れ、必死に佐藤を引き寄せた。
彼女の手は温もりを失い、もう私の呼びかけには反応しなかった。

逃げるように園を後にする途中、振り返ると、そこには遊具の前に立つ白いワンピースの女の子と、無表情で佇む佐藤の姿が見えた。
私はその光景を忘れられない。
なぜなら、それが失った友人との別れとなってしまったのだから。
園は今も、誰もが恐れる奇妙な声を秘めたまま静かに佇んでいる。
そして私の心には、あの苦しそうな声がいつまでも響き渡っている。

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