「忘れられた遊び場」

桜井健太は、大学のサークル仲間と共に、大学近くの公園に集まることにした。
その公園は広々としていて、新緑が美しいが、一方で夜になると不気味さを増すことで知られていた。
健太は冗談半分で、皆に「怖い話をしよう」と提案した。

そんな中、一人の女子、藤原美咲が口を開いた。
「この園には、昔、行方不明になった子供の話があるんだって。」皆の視線が美咲に集まった。
彼女は続けて言った。
「子供が遊んでいた時に、一人だけ園から出て行ったんだけど、仕事に戻った親が、何度呼んでも返事がなかった。それから彼は二度と見つからなかった。今も、時々その子の声が聞こえるという噂があるよ。」

健太はその話に興味を持ち、さらに掘り下げることにした。
「でも、その子は本当にいるのかな? もしかしたら、ただの噂じゃないの?」彼は少し腹を立てたように言った。
美咲は心配そうに健太を見つめ返し、あまり良い気はしなかった。

その夜、友人たちと公園に残った健太は、何か気配を感じた。
周囲は静まりかえり、風が木々の葉に触れる音しかしなかった。
彼は「ちょっと見てくる」と言い、少し離れた遊具の方に向かった。
そこには古びたブランコがあり、子供たちの笑い声がかつて響いていたことを思い出させた。

突然、ブランコが自動的に揺れ始めた。
驚いた健太はその場に立ち尽くし、視線を固定した。
すると、ブランコの隣に子供の姿が現れた。
ボロボロの衣服を着た男の子で、彼の目はどこか寂しげだった。
健太は思わず後ずさりし、「誰か!」と叫んだ。

男の子は少し微笑み、「一緒に遊ぼうよ」と言った。
その声は優しいが、どこか空虚さが漂っていた。
健太はその瞬間、アイスクリームが溶けてしまいそうな寒気を感じた。
彼は心の奥で、さっきの話が現実になってしまったことを思い知った。

その時、周囲から友人たちの声が聞こえてきた。
彼らは健太を呼んでいたが、彼はその場から離れたくなかった。
子供はさらに「ここは楽しいよ。ずっといられるよ」と語りかけてくる。
健太は心が揺らぎ、「でも、私は帰らなきゃ」と告げた。
すると、その子の表情が変わり、悲しみに満ちた目で「じゃあ、僕を忘れないでね」と言った。

振り返ると、美咲たちが駆け寄ってきた。
健太はその瞬間、子供の姿は霧のように消えてしまった。
彼は友人たちに話したが、みんなは「それはただの気のせいだ」と一笑に付した。
だが、彼の中には何かが残っていた。

家に帰った後も、その子の言葉が耳に残っていた。
数日が過ぎ、健太は毎晩、夢の中でその子と過ごすようになった。
彼は夢の中で笑い合い、一緒に遊び、まるで何も時間が経っていないかのようだった。
しかし、現実では彼の心の中には薄らいだ後悔があった。
「何かをしなければ」と思うが、具体的に行動を起こすことができなかった。

ある晩、健太は友人たちと公園に再び訪れた。
遊ぶ子供たちのはしゃぎ声に混じって、健太は耳の奥であの子の声が聞こえるような気がした。
「僕を忘れないで」と。
その瞬間、何かが彼を突き動かした。

健太は美咲に話しかけ、「その子のために何かしたい。でも、どうやって?」と言った。
美咲は彼の手を握り、「その子の思いを受け止めて、忘れないことが一番大切なんだよ。私たちも一緒に思い出を作っていこう」と優しく語った。

その後、彼らは公園で集まり、子供たちと一緒に遊び、笑って過ごす時間を持つことにした。
そして、健太はその子供のことを話し、忘れない努力を続けた。
公園は今も変わらずその子の思い出が残る場所となり、次第に彼の心も軽くなっていった。

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