静まり返った村の外れに、かつて人々が栄えていたひとつの集落があった。
その名は「開村」。
村はその名の通り、異なる世界へと道を開く不思議な場所として昔から語り継がれていた。
村には、昭和の初めに生まれた一人の女性、里香が住んでいた。
彼女は村の伝説に興味を持ち、幼い頃から多くの話を聞かされて育った。
里香が成長するにつれて、村には「開かれた道」の噂が広まった。
それは、まるで異世界へと続くようなトンネルであり、その奥には忘れられた記憶や亡き者の存在が待っていると言われていた。
誰もがその道を恐れていたが、里香は好奇心を抑えることができなかった。
ある晩、満月の明るい光が村を照らしていた。
静けさの中、里香は決心し、開村の外れにあるその道を探しに出かけることにした。
村人たちは警告した。
「道に迷うと戻れなくなるからやめなさい」と。
しかし、里香はその言葉を無視し、目指すべき方向を感じながら歩みを進めた。
やがて、彼女は薄暗い木々の中に隠された小道を見つけた。
道の入口には朽ちた杭が立っており、「開」の文字がかすかに見えた。
まるで誰かが道を閉じ込めようとしているかのように思えたが、里香はそのまま進むことにした。
道を進むにつれて、周囲は徐々に不気味な雰囲気に包まれてきた。
息を呑むような静けさが漂い、風さえも寄り付かない。
やがて、里香は目の前に薄暗い空間が開けるのを感じた。
その瞬間、彼女は異次元へと引き込まれるような感覚に包まれた。
目の前には、どこか懐かしい風景が広がっていた。
それは、失われた人々の笑顔に満ちた、かつての開村の姿だった。
しかし、村は今、異なる時間の流れの中にあった。
里香はその風景に驚愕し、足を止めた。
だが、すぐに心の奥にある不安が彼女を襲う。
「これは本当に私の村なのか?」と。
すると、目の前にひとりの老人が現れた。
彼の目は深い知恵を宿し、里香を見つめていた。
「ようこそ、里香。この世界へ。あなたが探し求めていたのは、かつてここに住んでいた人々の記憶です」と彼は言った。
その言葉と共に、里香は真実の奥底に惹き込まれていく感覚を覚えた。
老人は続けて言った。
「開村は亡者と繋がる場所。ここに来た者は、自らの心の奥底にある未練や忘れられた思い出を見つけることができる。しかし、帰るためには、その思いを解き放たなければならない」
里香は異なる自らの記憶と向き合わせることになった。
彼女の心の中には、母の存在があった。
幼い頃、母が亡くなったことを思い出し、胸が締め付けられた。
母の声、優しさ、そして最後の別れ。
その全てを抱えたまま、里香は生きていた。
彼女はその思いを抱えたまま、この異なりし村に来てしまったのだ。
時間が過ぎて、里香はついに決意した。
涙を流しながら、母に対する感謝の気持ちを伝えることにした。
「お母さん、私を守ってくれてありがとう。あなたのおかげでここまで来ることができた」と、深く思いを馳せた。
次の瞬間、周囲が明るく輝き、異世界の景色が消えていくのを感じた。
村の入り口が再び開かれ、里香はその場所から解き放たれた。
「私は帰ることができた」と心の底から安堵の息を漏らした。
彼女は元の村に戻ることができたのだが、村は静まり返ったままだった。
以降、里香は村人に語りかけることを決心した。
「開村には、忘れたくても忘れられない大切な存在がいる」と。
その言葉は村の人々に深く残り、里香はその思いを後の世代に受け継いでいくこととなった。