「忘れられた祭りの影」

夜も深まった頃、光る蛍が舞う里山の入口に、静かに佇む古びた一軒家があった。
その家は村では有名な「忘れられた家」と呼ばれ、最近では誰も近寄らなくなっていた。
世間から隔絶されたその場所には、かつて多くの人々が集った祭りの跡地が広がっていた。

ある晩、大学生の高田誠は、友人たちと共にこの家を訪れることにした。
彼は肝試しが好きな性格で、特にこの「忘れられた家」にまつわる怪談を聞くのが楽しみだった。
誠は、友人の佐藤美咲や小林信也と共に、その家へと足を運んだ。

「本当にここに行くの? こんな不気味なところ…」思わず怯える美咲に対し、誠は勇気づけるように言った。
「大丈夫だよ、ただの噂なんだから。何もないって。」

家の扉を開けると、冷たい空気が彼らを包み込んだ。
中に入ると、月明かりが薄暗い室内をほんのり照らしていた。
家の中は古びているはずなのに、どういうわけか異様に生き生きとした気配を感じた。
彼らは懐中電灯を持ち、家の奥へと進んでいった。

すると、ふと視界の端に何かが動いた気配を感じた。
「見た?」信也が声を上げ、誠も目を凝らした。
薄暗い廊下の向こうに、女の子の姿がちらりと見えたような気がした。
しかし、それはすぐに消えてしまった。
誠は心の中で緊張と興奮の波が押し寄せてきた。

「ちょっと待って、ここに何かいるかもしれない…」強気だった誠も、怖くなりかけていた。
その時、美咲が急に何かに気づき、指さした。
「あの壁、見て…」

壁には絵が描かれていた。
女性が祭りの際に踊っている姿だ。
その女性は、肌が青白く、目が不気味に光っていた。
彼らはその絵に見入ってしまった。
すると、突然、耳元で鈴の音が響いた。
ハッと気づくと、美咲の顔が青ざめていた。

「ねえ、鈴の音聞こえる?」美咲は震える声で言った。
信也は「おそらく風が…」と弁解しようとしたが、その瞬間、家全体が震えるような感覚が走った。
そして、目の前の絵が動き出し、女性の笑顔が彼らを見つめるかのように変わった。

「もう帰ろう…」誠は言ったが、その言葉は虚しく響いた。
部屋の奥から、かすかな声が聞こえてきた。
「私を忘れないで…」

その声は、どうしようもなく悲し気で、彼らの心に重なるものがあった。
誠が思わず振り返ると、廊下が異常に長く伸び、出口が遠ざかっているように感じた。
焦る気持ちで足を動かすと、廊下がどんどん狭まってくる。
信也が美咲を引っ張り、「早く!」と叫んだ。

そして、彼らは振り返った。
すると、あの女性が姿を現し、彼らに向かって手を伸ばしてきた。
その瞬間、誠の中に何かが蘇った。
彼は、この女性のことを知っていた。
昔、彼の祖母が語った伝説。
祭りの際、冤罪で命を落とした女性の霊が、永遠に家を守っていることを。

「私の名前を…忘れないで…」女性の声は嬉しさと切なさが入り混じったもので、彼らの心に強く響いた。
冷たい風が吹き抜ける中、誠は何かを感じ、彼女の眼差しを逃れられなくなった。

「私…あなたのことを知ってる。」誠は言葉を返す。
すると、女性の表情がわずかに和らぎ、姿が少しずつ淡くなっていく。

「忘れないで…」その言葉が消えた後、彼らは無我夢中で家を出ようとした。
しかし、出口にたどり着く頃には、振り返ることができなかった。
振り返ると、女性の姿は完全に消え、ただ空虚な家だけが広がっていた。

彼らは激しく打ち震えながら外へ飛び出した。
そして、ようやく里山の夜の静けさに戻った。
しかし、心の中には女性の声が今も響いていた。
「私を忘れないで…」

誠はその後、村に戻って伝説を再び噂にし、人々に語り続けた。
彼の心からは、もう二度と忘れ去られずに、女性の神秘が長い眠りの中で光り続けていることを、まるで自分のことのように感じていた。

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