昔、静かな山村に、田中清子という女が住んでいた。
清子は幼い頃から風習を大切にし、特に地域の祭りや行事への参加を欠かさなかった。
彼女の家族は代々村の守り神を祀る役割を担っており、彼女もそれを引き継ぎ、明るく親しみやすい性格で村の人々から愛されていた。
ある年のこと、村で行われる春の祭りの準備が進んでいた。
清子は友人たちと一緒に飾り付けをしていると、村の老人が近寄ってきた。
「この祭りは特別な年なんじゃ。注意せえよ。」と、不気味な警告を残して立ち去った。
清子はその言葉を軽視し、とりあえず笑って流した。
祭り当日、村はにぎわい、清子も楽しんでいた。
だが、夜が深まるにつれ、村の境内が不気味な静けさに包まれ始めた。
ふと、清子はある古い神社に目を引かれた。
その神社には、見慣れない神の像が祀られていた。
興味を引かれた清子は友人たちに声をかけたが、皆は彼女を無視して楽しみに行ってしまった。
清子は一人、神社に近づいてみることにした。
その神社は古びていて、薄暗い雰囲気が漂っていた。
足元には、散乱した落ち葉と小さな花びらが風に揺れていたが、何か不穏な気配を感じさせた。
彼女が近づくと、急に冷たい風が吹き、清子は背筋が凍る思いをした。
石の像に手を触れれば、締め付けられるような感覚が指先に伝わった。
誰もいない神社で、一瞬彼女の心に不安が広がり、急に帰りたくなった。
だが、清子はその場を離れることができず、精神的に追い詰められていた。
次の瞬間、神社の周りが薄暗い霧に包まれた。
その中から不気味な声が響く。
「帰れ、帰れ…お前はここに残るべきではない。」声は清子の心に焼き付き、逃げ出したくても足が動かない。
彼女は恐怖で息を呑み、何とか意識を保とうとしたが、まるで何かに引き寄せられるように石像の方へ引き寄せられた。
その時、清子の目の前に現れたのは、昔この村に住んでいた魂たちだった。
彼らは祭りの度に神社で祭られなければならず、清子に警告をしていたのだった。
「私たちを、私たちの存在を忘れるな。清めたくてもこの場所を離れられぬ者がいる…」
清子は驚き、混乱の中で叫んだ。
「私はただ祭りのために来ただけ！あなたたちを覚えています、決して忘れません！」
その瞬間、彼女の思いが通じたのか、エネルギーが解き放たれ、霧が晴れていった。
しかし、清子はその光景の中に何か重要なものを見逃したような気がした。
不安を抱えつつ神社を後にした彼女は、家に帰る道すがら、村を見守る意味を強く感じ始めた。
祭りが終わり、村の人々が安らかに帰宅していく中で、清子は改めて決意した。
帰るべき場所は、ただ自分が住む村だけではない。
そして、古くからの伝承を守り、忘れられた魂たちを追悼することを心に誓ったのだった。
それから数年後、清子は村の祭りや行事の大切さを広める役割を果たしていた。
彼女の言葉には不思議な力が宿り、人々は彼女を敬い、地域の絆を大切にするようになった。
清子は自らの持つ使命を果たし、部族の守り神を再びこの村に呼び戻すことができた。
彼女の心が清まるたび、村は更なる繁栄を遂げたのだった。
