彼女の名は美咲。
北海道の小さな町に住む大学生で、友人たちと共に休日を楽しむ毎日を送っていた。
しかし、ある日、彼女は町の外れにある、古びた道を見つける。
その道は、普段は誰も通らない、人の気配が薄い場所だった。
その道を歩いていると、彼女の耳元で微かな声が聞こえた。
「助けて…助けて…」それはか細い女性の声で、どこからともなく響いてくる。
しかし周囲には誰もいない。
美咲は興味を持ち、その声の正体を探ることにした。
道を進んでいくと、その先には古い神社があった。
石の鳥居は崩れかけており、長い年月が経ったことを物語っていた。
美咲は一瞬、引き返そうか迷ったが、不思議な声に導かれるように中へと足を踏み入れた。
境内には、手入れされていない木々が生い茂り、薄暗い雰囲気が漂っていた。
その時、再び声が聞こえてきた。
「ここにいる…。助けて…」美咲は凍りつくような恐怖を感じたが、どうしてもその声の正体を知りたかった。
神社の奥へ進むと、朽ち果てた社が現れた。
中には水溜りができており、その底に何かが埋まっているように見える。
美咲は思わず社の中を覗き込んだ。
その瞬間、気がつくと水溜りの中に映る自分の顔が変わっていることに気づいた。
目が異様に大きく、微かに笑っているのだ。
恐怖で身動きが取れず、ただその光景を見つめ続けることしかできなかった。
心臓が高鳴り、意識を失いそうになったその時、耳元で再び声が響いた。
「どうして助けてくれないの…」美咲は心の中で葛藤した。
助けてほしいという願いは理解できる。
しかし、彼女にはその声が何者なのか、どうすれば救えるのか、まるで分からなかった。
さらに神社の奥に歩みを進めると、白い霧が立ち込め始めた。
その中から、幻のように女性の姿が現れた。
彼女は美咲を見つめ、涙を流していた。
その涙は、彼女の周囲にある藪からこぼれた奇妙な光のように、キラキラと輝いている。
恐る恐る美咲は声をかけた。
「あなたは誰?」女性の姿は消えかけたが、それでも彼女は優しい声で語りかけた。
「私はこの神社を守っていた者…道を外れた人を救うために存在しているの…でも、もう何年も誰もここを訪れてくれない。」
女性の言葉に心を打たれた美咲は感じる。
彼女はただ助けてほしいのではなく、この神社自体を忘れ去られることを恐れているのだ。
美咲は思った。
この神社を守るためには、何かしなくてはならない。
そこで美咲は、彼女が大学で学んだことを生かして、この神社を人々に知ってもらうことを決意した。
SNSを利用して神社の歴史を紹介し、訪れる人々を増やす活動を始めた。
その活動が実を結び、次第に人々の関心が集まり、神社は少しずつ活気を取り戻していった。
すると、ある晩、再び神社へ行くと、女性の姿が美咲の目の前に現れた。
彼女は微笑み、感謝の意を表した。
「ありがとう…あなたによって、私はやっと解放されることができる。」そう言い残し、女性は消えた。
それ以降、美咲は神社で過ごす度に、その場所が生き生きとしたものに変わっていくのを実感した。
彼女は、ただの偶然が導いたこの神社の物語を通じて、恐怖を超えた新たなつながりを築くことができたのだった。
今では彼女にとっても、忘れられた道の救いの物語となった。