村のはずれには、小さな神社があった。
そこはかつて地元の人々が大切にしていた場所だったが、時が経つにつれ、忘れ去られてしまった。
神社は朽ち果てて、周囲は雑草と藪に囲まれ、訪れる者はいなかった。
しかし、数年前からその神社の近くで信じられない現象が起きるようになった。
地元では「現（うつつ）」と呼ばれる奇妙な現象が、村の人々に恐れられていた。
米田悠太という若者は、都会から帰省したばかりだった。
彼は好奇心が強く、噂話に興味を抱いていた。
特に、村に漂う「現」の噂を聞きつけ、その真相を確かめるために神社を訪れることにした。
友人の高橋と佐々木も一緒に行くことにしたが、彼らは不安を抱いていた。
「本当に行くのか？」高橋は恐る恐る尋ねた。
悠太は、自信を持って答えた。
「大丈夫だよ。都内だって、怖い話はいっぱいある。噂はただの噂だし、実際に見てみる価値はあると思う。」
夜が深まり、彼らは神社に向かって歩き出した。
月明かりの下、雑草が生い茂る道を進むと、徐々に神社の姿が見えてきた。
その時、空気は重く、何かが彼らを包み込むような感覚がした。
悠太はその感覚を無視し、神社の境内に足を踏み入れた。
彼が目撃したのは、荒れ果てた鳥居と、朽ちた社の姿だった。
普通の神社なら、神聖さを感じるはずが、そこにはただ恐ろしさが漂っていた。
悠太は立ち尽くし、次第に彼の周りの音が消え、静寂に包まれていくのを感じた。
「ここで何かが起きるのかな…？」悠太が呟くと、周囲に微かな風が吹き、葉音が聞こえた。
その瞬間、何かが動く気配がした。
高橋と佐々木も気づき、顔を向けた。
「誰かいるのか？」と高橋が声を上げると、薄暗い社の中から、わずかに人影が見えた。
その影は不気味に揺れ、目が合った瞬間、悠太はその影が老女であることに気づいた。
「あなたたち、どうするつもり？」老女は静かに問いかけた。
その声音には、怨念が宿っているかのように聞こえた。
悠太は恐怖で動けずにいたが、心の中の好奇心が彼を促した。
「ここで何が起こるのですか？」悠太は震える声で問うた。
老女は少し微笑みながら、自らの過去を語り始めた。
彼女の名は藤井はるかと言い、かつてこの村を守る神として崇められていた。
しかし、ある日、村人たちに裏切られ、神社は荒れ果て、彼女も無残にこの世を去ったのだという。
「その恨みは、今もこの地に残っている。」はるかの言葉は、まるで悠太の心を打つように響いた。
「私の復讐を手伝ってほしいの。あなたたちの力が必要なのよ。」
高橋と佐々木は逃げ出そうとしたが、悠太は恐れを振り払おうとして声を上げた。
「私たちが手伝うことができるのか？」
「そう、あなたたちが村へ戻り、真実を伝えなさい。」はるかの目は炎のように輝き、悠太はその目に引き込まれるような感覚を覚えた。
「あなたたちの声が、私を解放するのよ。」
彼は決意を固め、友人たちに神社を後にするよう告げた。
しかし、周りの雰囲気は急変した。
薄暗い境内は急に冷たくなり、風が強く吹き抜けた。
亡霊のようなささやきが響き続け、彼らの心をかき乱す。
「逃げるな…私の願いを果たせ…」老女の声が色褪せ、次第に神社の静けさが元に戻っていく。
悠太は恐ろしい現実に直面した。
彼は友人を連れ、急いで神社を後にした。
村に戻る途中、彼の心には一つの思いが浮かんでいた。
果たして、彼は本当に「現」の真実を知ることができるのだろうか。
そして、はるかの復讐を手伝うことになるのか。
彼の胸には、葛藤と恐怖の感情が渦巻いていた。
彼の運命は、すでにこの古びた神社に囚われていたのだ。
