夜の静けさが漂う中、のりは孤独な足取りで橋へと向かっていた。
一年に一度、彼はこの場所を訪れることを決めていた。
橋の静かな風景の中に、彼が忘れられない思い出が詰まっているからだ。
彼の最愛の友人、徹はその橋から身を投げてしまったのだ。
その出来事から、もう5年が経っていた。
のりは、その日を思い出すと胸が締め付けられる。
徹はいつも明るく、楽しみを見つけるのが得意だった。
しかし、彼はその日、どこか別人のように落ち込んでいた。
のりは徹を気にしていたが、彼を励ましても無駄だと感じていたのだ。
結局、徹は何も言わずに橋の向こうへ消えていった。
今夜も、のりは橋の上で彼のことを思い出していた。
暗い川の流れに目をやると、そこで何かが光っているのを見つけた。
それはまるで、徹の笑顔が反射しているかのように思えた。
のりはその瞬間から、徹ともう一度会えるのではないかという期待が胸の中で膨らんだ。
強く彼を思えば、何かが表れるのではないかと。
そのとき、急に風が吹き荒れ、不気味な声が耳に飛び込んできた。
「のり、助けて…」それは確かに徹の声だった。
のりは体が凍りつく思いで振り向くと、薄暗い中に誰かの影が見えた。
その影は少しずつ明らかになり、のりは驚愕した。
そこに立っていたのは、間違いなく彼の友人、徹だった。
だが、彼の表情はいつもの明るさとは程遠く、どこか虚ろで、周囲の暗闇と馴染んだような姿だった。
「のり、僕はここにいる。助けてほしいんだ…」徹の声はかすれていた。
のりは驚きと恐怖で立ち尽くすことしかできなかった。
しかし、心のどこかで、徹が自分に何かを伝えたかったのだということを感じ取ることができた。
のりは勇気を振り絞り、徹に向かって言った。
「何があったんだ、どうしてそんな姿に…?」
「僕は決してここから逃れられない。橋の呪いだ…」徹の言葉はのりの心に重く響いた。
「僕がここで君を待っている限り、僕の存在は消えない。だからお願いだ、二人でこの呪いから解放されよう。」
のりは心がざわつくのを感じながらも、徹を助けたいという思いが強くなった。
「どうすればいいんだ?」と問いかけると、徹は少しずつ近づいてきた。
その瞬間、のりは彼の手が冷たくなっていることに気づいた。
「この場所に囚われているんだ…」
「僕の後を追うな、のり!それが呪いが続く理由なんだ。」徹の眼差しは必死で、のりを引き止めようとしていた。
のりの心の中で、過去の思い出が流れ出し、徹の笑顔や楽しかった瞬間が次々と蘇る。
しかし、今彼はこの橋に束縛されている。
彼を助けられるのなら、自分さえ犠牲になってもいいと思った。
のりは橋の端へと近づき、徹を抱きしめた。
「一緒に行こう、ずっと離れないよ。」
その瞬間、強い風が吹き荒れ、橋が激しく揺れた。
のりは徹と一緒に飛び込む準備をした。
しかし、徹は驚いた顔をして止めた。
「違う、のり!そうしたら、君も僕と同じ運命になる!」
「それでもいい!一緒にいられるなら!」のりは強く叫び、目を閉じた。
すると橋が大きな音を立て、暗闇が二人を包み込んだ。
次の瞬間、何も見えない静寂が広がった。
気がつくと、のりはまた橋の上に立っていた。
周囲には何もなく、ただ川の流れの音だけが響いている。
徹の姿は消え、ただ冷たい風が彼の頬を撫でていた。
のりは呪いから逃れることができず、再びひとりぼっちになった。
彼は橋を後にして歩き出すが、心の中には依然として徹の声が響いていた。
彼を失ったことの痛みが、いつまでも彼を縛り続けるように。