「忘れられた森の光」

深い森の中にひっそりと佇む一軒の古びた家。
その家は、流れる時間の中でいつしか忘れ去られ、周囲の自然に飲み込まれていた。
誰も訪れることのない場所だったが、ある日、大学生の健一が友人たちと共にその家を探しに来ることになった。

「この家、ホントに怖いらしいよ!」と陽子が言う。
「夜には幽霊が出るとか、何だか怪しい噂があるって。」

「そんなの、ただの噂だろ。怖がるなって。」と健一は言い返した。
しかし、心の奥底ではドキドキ感が募っていた。
彼らは都市の喧騒を離れ、自然の中での刺激を求めていたが、果たしてこの家が誘うものが何なのかを知る由もなかった。

夕方、彼らはその家の前に到達した。
木々に囲まれた薄暗い空間の中、家は朽ち果てたように立っていた。
扉は開いており、内部からは深い闇が広がっていた。
勇気を振り絞り、健一が最初に中に入る。
続いて陽子、そして友人の直樹が続いた。

中は静寂に包まれ、かすかに埃の香りが漂っていた。
窓は閉じられ、光がほとんど入ってこない。
健一が懐中電灯を照らすと、壁には奇妙な模様が描かれているのが見えた。
何か不気味な雰囲気を醸し出していた。
「これ、何の模様だろう?」と直樹が呟いた。

その時、陽子が突然声を上げた。
「ねえ、これ見て!開いてる窓があるよ!」彼女は指さすと、奥の部屋の小さな窓がわずかに開いていた。
健一はその窓に近づき、光を当ててみた。
すると、窓の外には見知らぬ景色が広がっていた。
木々や草花が美しく茂っていたが、何かが彼の心に不安を与えていた。

「この窓…何かおかしいよ。」と健一が言うと、陽子は少し不安そうな顔をした。
「帰った方がいいんじゃないかな。」直樹も同意したが、健一は興味に駆られ、「もう少しここにいたい」と言った。

しかし、その瞬間、ドアがバタンと閉まり、閉じ込められてしまった。
健一は驚き、陽子も慌てて後退した。
「やっぱり、帰ろうよ!」と陽子が叫んだ。
彼らはドアを叩いて叫んだが、誰も来ることはなかった。

不安が募り、テンションはさらに高まった。
すると、陽子の目の前に青白い光が現れた。
その光は彼女を引き寄せるように揺らめいていた。
一瞬、彼女はその光に魅了されたが、すぐに我に返り「これは夢じゃない!」と叫んだ。
しかし、その言葉は空虚に響いた。

「健一、助けて!」陽子が叫び、健一は何をすべきかを迷った。
彼は懐中電灯を持ってその光に近づいていったが、その光は闇の中でどんどん遠ざかり、彼女の表情は恐怖に歪んでいった。
直樹ももう耐えられなくなり、「行こう、早く!」と健一を引き戻そうとした。

その瞬間、家の中が激しく揺れ始めた。
壁から奇妙な音が聞こえ、彼らの周囲の模様が生きているかのように動き出した。
「出よう、ここから!」健一は必死に叫び、陽子の手を引いた。
暗闇に圧倒されそうになりながらも、ドアを探し、力を振り絞って向かった。

ようやくドアにたどり着くと、健一は力尽くでドアを押し開けた。
外に出た瞬間、彼らは安堵した。
だが、振り返ると、その家は静けさの中で立っており、窓は閉じられ、まるで何事もなかったかのように見えていた。

森の中を逃げるように下りながらも、健一は何が起きたのか分からなかった。
ただ一つ、彼の心に残ったのは、あの青白い光だった。
あの光が何を求め、彼女をどうにかしようとしたのか。
そして、いまだ消えた陽子がこの世界に留まっているのかもしれないという恐れる感情が彼を襲った。

彼らはその後、家の近くには二度と足を踏み入れなかったが、健一の心には常にあの不気味な光と交わした選択の影が留まっていた。
実際に彼が見たものは真実か、それとも彼の想像が生んだ幻影なのか。
それは彼自身が一生背負うことになる闇のようなものだった。

タイトルとURLをコピーしました