「忘れられた教室の光」

れは、古びた小学校が立ち並ぶ地方の町だった。
町のはずれに位置するその学校は、長い間使用されていなかったため、草木が生い茂り、見る影もなかった。
昼間でも薄暗い校舎は、子供たちの笑い声が消え去った後、静寂に包まれた。
今は、ただの廃墟。
しかし、地元では「壊れた学校」として知られ、近づくことを忌み嫌われていた。

その学校には、かつて「結」ちゃんという一人の少女がいた。
彼女は明るく、友達思いの性格で、誰からも愛されていた。
しかし、ある日、彼女は謎の失踪を遂げ、そのまま行方不明になってしまった。
その後、結ちゃんの名前は、いつしか町の中で「消えた少女」として語り継がれることになった。
町の人々は彼女の存在を忘れようとするが、心の奥では、彼女が何か特別な存在であったことを知っていた。

数年後、町には新しい中学生たちが入ってきた。
その中の一人、拓郎は、学校の廃棄物を片付ける清掃活動の一環として、その「壊れた学校」を訪れることになった。
彼は、周りの友達から道を外れることや、校舎の中に入ることを禁じられていたが、興味を抑えきれずに校舎に足を踏み入れる。

校舎の中は、かすかな湿気と古い本の匂いが渦巻いていた。
彼は暗い廊下を進み、かつて結ちゃんが通っていた教室に辿り着いた。
そこで彼は、一枚の古びた黒板を見つける。
それは誰かが名字を書いたものだったか、人気のある言葉が壁に寄せられているようだった。
拓郎はその下にある机に近づき、ほこりまみれのノートを開くと、結ちゃんの名前が目に飛び込んできた。

突然、彼の背後から冷たい風が吹き抜け、ノートは閉じてしまった。
驚いた拓郎は振り返ったが、誰もいない。
そして、何かが彼の心の中でざわめき始めた。
「消えた少女」の伝説が現実になるのか、それともただの思い込みなのか、思考が混乱する。

その夜、拓郎は夢の中に結ちゃんが現れた。
彼女は言った。
「私はまだここにいる。私を忘れないで」と。
目が覚めた拓郎は、少し震えていた。
彼の心のどこかで、結ちゃんが取り残されていることを知った。

数日後、拓郎は再び「壊れた学校」へ向かうことを決意する。
彼は、結ちゃんが何を求めているのか、それを探そうと心に決めた。
彼女のことを知るためには、彼もまたその学校にこだわらざるを得ないことを理解したのだ。

校舎に入ると、再び薄暗い教室が彼を迎えたが、今回は脈拍が高鳴った。
彼が教室に入ると、突然、窓が開き、冷たい風が教室中を吹き抜けた。
そして、結ちゃんの姿が教壇の前に現れた。
彼女は、今にも消えてしまいそうなほど、ぼんやりとした存在だった。

「私を助けて…」その声はか細かった。
結ちゃんは、彼女がこの場所に縛られている理由を告げた。
彼女は何度か友達を守ろうとしているうちに運命が狂ってしまったこと、消えた後に誰も彼女のことを気にかけてくれなかった悲しみを語る。
拓郎は心を痛め、彼女を忘れないことが復讐を果たす唯一の方法であると悟った。

彼は教室の隅にあった古い机を引きずり出し、結ちゃんのために何か新しいものを書くことに決めた。
彼女の名前を黒板に書き、「忘れない」と。
そして、周りの友人たちに彼女の話を伝えることを誓った。

村の人々は、拓郎の行動を知り、次第に結ちゃんのことを語り始めた。
彼女の名前が再び町に響き渡ることで、結ちゃんは少しずつ薄暗い教室から解放されていくようだった。
結局、拓郎は結ちゃんの存在を復活させ、彼女の心に、ちょっとした光をもたらしたのだった。
彼女は不安と孤独から解き放たれ、不気味な存在から一歩踏み出すことができた。
そして、彼の行動は、町の人々にとっても、新たな出発のきっかけとなった。

タイトルとURLをコピーしました