「忘れられた思い出の家」

古びた町の外れに、誰も近寄らない小さな廃屋があった。
その家は、かつての住人が去った後、誰にも触れられずに放置されていた。
夜羽魅零は、その廃屋についての噂を耳にした。
「あの家の中では、現実とは違う何かが起こる。」と、彼女の友人が囁いたのだ。

好奇心に駆られた魅零は、友人たちと共にその廃屋へと足を運んだ。
月明かりが差し込む中、家の外観はまるで経年劣化した絵画のようにぼんやりと浮かび上がっていた。
彼女は静かに足を踏み入れ、木の床がきしむ音を背に、暗い廊下を進んだ。

家の内部は、薄暗く静まり返っていた。
魅零は心の中で胸の高鳴りを感じながらも、妙な安心感を覚えていた。
彼女は、その場所に何かしらの意味があると信じていたからだ。
友人たちが話していた不気味さを感じることはなかった。

廊下を進み、彼女は一つの部屋に辿り着いた。
ドアが半開き、そこにはお古の家具が積まれ、埃が舞っていた。
彼女が足を踏み入れた瞬間、部屋の空気が変わったことに気付く。
思わぬ強い風が吹き込み、背筋が凍りつくようだった。

その時、目の前に揺れる人影が現れた。
老女の姿だった。
白髪交じりの髪、黒い服を身にまとい、光のない目で魅零を見つめていた。
彼女は畏怖を覚えたが、同時にその女性に何かを求める心の声が聞こえた気がした。

「あなたがここに来るとは、待っていたわ。」老女はそう言って微笑んだ。
その視線は暖かくもあり、どこか触れてはいけないもののようでもあった。

魅零は不安を感じながらも、「私が来たのは、この家の秘密を探るためです。何がここで起こるのかを知りたかった」と語った。

老女は微笑んだまま、静かに頷いた。
「あなたもその覚悟があるのね。そして、そうすることで私の過去もまた明らかになる。もう一度、私の思い出を体験してみるかい?」

言葉の意味が理解できない魅零は、ただ不安を抱えた。
老女の手が伸びてきたとき、魅零は拒否しようとしたが、身体が引き寄せられる感覚に襲われた。
彼女は部屋の中に光が差し込むのを見た。
そこで彼女は、昔の景色が再生されていくのを感じた。

古い家がかつての賑わいに満ち、人々が笑い合っている光景が広がる。
しかし、その中に老女の姿もあった。
彼女は誰からも見放されていて、周囲の人々は無関心だった。

「私は信じられなかった。ただ寂しさだけが残ったの。人は思い出を大切にしないのね」と老女がつぶやく。
その言葉は魅零の胸に刺さった。
彼女は、その老女の苦しみを感じ始めた。

時が過ぎ、魅零は再び目を覚ました。
自分自身が廃屋の中にいることに驚いた。
時計はさっきと同じ時を刻んでいた。
しかし、心の中には老女の思い出が根付いていた。
彼女の苦悩や孤独、そして誰かに求める信頼が今の自分を形作っていると痛感した。

廃屋を後にしながら、魅零はこれまでの自分がいかに狭い視野でしか物事を見ていなかったのかを反省した。
老女の存在を通して、過去の記憶や思い出がいかに大切だったのかを思い知った。
彼女はもう一度、その家に足を運び、老女を訪ねることを決意した。

やがて彼女の心に、彼女自身を見つめ直すための探求が始まった。
彼女はただの怪談ではなく、孤独や思い出を探る旅路に導かれていたのだった。

タイトルとURLをコピーしました