談は大学時代の友人たちと共に、夏休みの旅行で行くはずの場所をすっかり忘れてしまっていた。
しばらくの間、彼は何をしようか考えていたが、結局思い出したのは、評判の悪い廃墟の話だった。
古いビルの話は多く、特にその廃ホテルの伝説は、噂の中でも最も恐ろしいものだった。
なぜか談はその廃墟に引かれるような気持ちを抱えながらも、どこかでその場所への興味が湧いていた。
彼は一人で行くことに決めた。
初めは少し怖かったが、時間が経つにつれてその緊張感が楽しみに変わってきた。
一晩中かかって廃ホテルに辿り着くと、薄暗い外観が彼を待っていた。
周囲は静まり返っており、ただ風が吹き抜ける音が耳に響く。
その瞬間に、彼は背筋が寒くなるような感覚を覚えたが、冒険心が勝り、思い切って中に入ることにした。
廊下は不気味なほど静かで、薄暗い照明がその影を深く刻んでいた。
談はカメラを取り出し、建物の様子を記録しようとした。
しかし、何かが彼の心に不安を呼び起こすような気配を感じた。
突然、彼の脳裏にふと思い出が浮かんだ。
それは、自分が学生の頃に聞いた「廃墟の中で誰かを追ってくる」という話だった。
彼は急にその話が頭をよぎり、周囲を見渡した。
誰かが自分を見つめているような気がしてならなかったが、もちろん誰もいない。
彼は目を閉じて、心を落ち着けようとしたが、心臓の鼓動がどんどん速くなり、耳の奥に囁く声のようなものが聞こえてきた。
「逃げてはいけない…」
その声に背中がぞくりとした。
恐怖が高まる中、彼は道を進んだ。
進むにつれて、部屋の扉が一つずつ開いているのに気がついた。
まるで誰かが追ってきているかのように。
彼は振り返って誰かがいるのか確認したが、ここにいるのは彼だけだった。
さらに奥へ進むと、薄暗い部屋の片隅に何かが動いた気配がした。
談は息を飲み、頭をさます。
前にあった扉が閉じられていることを確認し、自分の背後に何かが存在することを直感的に感じた。
彼は急いで廊下を駆け抜け、出口を探すが、心臓の鼓動は不安を煽り続けた。
その瞬間、目の前に現れたのは、かつてこの廃墟で失踪したと噂される青年だった。
彼の目は虚ろで、息も絶え絶えだった。
談の心の中に「逃げろ」という感情が強く芽生え、青年の姿が彼を追い詰めるように迫ってきた。
「ここにいるのか!」と彼は叫んだが、青年はただ彼を見つめ続けた。
談は全速力で廃墟を抜けようとするが、逃げるたびに部屋の数が増えていくかのように感じた。
廊下の先には出口が見えているのに、なぜかそこまで辿り着けそうになかった。
恐怖に駆られた彼は、追いかけてくるものから逃れるために、目の前の廊下を再び走り抜けた。
最後の瞬間、談は廃墟の出口に辿り着いた。
外に出たその瞬間、彼は猛然と振り向いた。
青年はその場からこちらを見つめ、無言で立ち尽くしていた。
しかし、その瞬間、彼の耳に再びあの声が響き渡った。
「忘れないで…」
その言葉は、彼の心に深く刻まれた。
それから彼は悔いと恐怖の中、廃墟から離れた。
その後、彼は何度もあの青年のことを思い出し、彼を救えなかったことを悔いている。
しかし、あの廃墟に行ったこと自体が、今も彼の心に影を落としている。