「忘れられた少女の跡」

深い山間にある小さな村。
その村には、古くから語り継がれている言い伝えがあった。
人々はその言い伝えを恐れ、村の外れにある森には近づかないようにしていた。
しかし、好奇心旺盛な少女、えはその言い伝えを軽視し、友達と共に森の奥へと足を踏み入れた。

彼女たちは、村の人々が語る『跡』の伝説を興味津々で話し合いながら進んでいた。
『跡』とは、かつてこの森に住んでいた少女が、村人によって命を奪われ、彼女の恨みが今も森に残っているというものだった。
少女が化けた『跡』は、立ち入った者に不幸をもたらすという。

友達から、えは「ただの怖い話でしょ」と笑われたが、彼女は好奇心からさらに森の奥へと進んでいった。
しばらくして、一行は何か不気味な気配を感じた。
その瞬間、周りの木々がざわめき、冷たい風が吹き抜けた。

「今のって…」友達の一人が震えながら言った。
「気味悪いな…帰ろうよ。」

しかし、えはその言葉を無視して進んで行った。
数分後、目の前に一際異様な木が立っているのに気づく。
それは人間の姿をしたような形で、枝がまるで手のように伸びていた。

「ここが問題のある場所かも…でも、私だけでちょっと調べてくるね。」えは、友達を置いてその木に近づいた。

近くで見ると、木の幹には何か跡が残っていた。
まるで誰かが手で抉ったような痕跡。
その跡を触れようとした瞬間、彼女は背後で進みたくない声を聞いた。

「ねえ、え。戻った方がいいよ。」

その声は、友達の声だと思ったが、振り向くと誰もいなかった。
そして、えの目の前にその木の側から現れたのは、白く透き通った少女だった。
少女は、えをじっと見つめている。
彼女の目には、何か悲しみと怨念が宿っていた。

「あなたは…誰なの?」えは震えながら問う。

少女は口を開いた。
「私は、跡に残された者。あなたが私の存在を忘れずに覚えておいてくれたら、私はここに留まらず、安息を得ることができる。でも、あなたが無視すれば、あなたに不幸をもたらすだろう。」

えは恐怖を覚えたが、同時に何か強い感情に駆られた。
「あなたを助けることができるなら…どうすればいいの?」

「私を忘れないで。私のことを思い出して、伝えてほしい。私がいたことを。」

少女の声が次第に消えていく。
えは、背後で友達の声が聞こえた。
「え、どこにいるの?」

その声を聞いて、えは逃げるように森を駆け出した。
友達と合流し、村に戻ると彼女は恐怖で心が満たされていた。
でも、同時にその少女の言葉が心に残った。

数日後、村では不思議な現象が起きた。
村人たちが次々に事故に遭い、怪我をすることが相次ぎ、村は恐怖に包まれた。
その時、えが感じたのは、その少女の恨みが広がっているのだという思いだった。

彼女は決心し、友達と共に森に戻ることにした。
そして、あの異様な木の前に立った。
彼女は静かに目を閉じ、少女の存在に思いを馳せた。
「あなたを忘れない、私は伝え続ける。」

その瞬間、森が静まり返り、彼女は後ろに何かが立っている気配を感じた。
少女の姿はもはや見えなかったが、彼女の心の中にはしっかりと根づいていた。

村に戻ると、村人たちが徐々に穏やかさを取り戻していた。
事故も収まり、思いもしなかった幸運が訪れるようになった。
しかし、えは心の片隅で、常に少女のことを思い出してはいた。

彼女の後ろには、少女の無言の存在が『跡』として留まっていた。
そして、えはこれからもその存在を、村の人々に伝え続けることを決意していた。

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