小さな村の外れに位置する、朽ち果てた古びた小屋。
そこを訪れる者はいない。
その小屋には、かつて一家が住んでいたというが、今はただ風の音と共に静まり返るだけだ。
しかし、その小屋にはある「談」があった。
村人たちは、その小屋の近くを通るときは決して足を踏み入れず、話題にも触れないようにしていた。
それは、亡くなった一家の霊が今もまだそこに留まり、訪れた者に何かを求めるからだという噂が影響していた。
しかし、真実を知る者は誰もおらず、ただ「談」として語り継がれるだけだった。
ある日のこと、若者の光司は友人たちとともに肝試しをしようと計画した。
彼らは村の隅にあるその小屋を目指すことに決めた。
友人の隆は少々心配だったが、光司は興奮のあまり「大丈夫だ、ただの噂さ！」と笑っていた。
日が沈むと、小屋への道は薄暗くなり始めた。
その道を進むにつれて、周囲の空気が重たいものに変わっていく。
最初は不安を感じていた隆も、仲間たちの話に興じているうちに、その緊張感を忘れ始めていた。
しかし、光司だけは何かを感じ取っているかのように静かだった。
小屋にたどり着くと、その古びた扉は不気味な音を立てて開いた。
内部は埃まみれで、植え付けられた恐れが薄らいでいくのを感じながらも、光司は興味をそそられていた。
部屋の奥には古いテーブルがあり、その横に一つの骨董品のような人形が置かれていた。
「なんだこりゃ？気持ち悪いな…」と言いながらも、隆はその人形に手を伸ばそうとした。
その瞬間、空気が一変した。
小屋の中が急に冷え込み、何かが彼らを見つめているような気配を感じた。
光司は友人たちに背を向け、「出よう」と静かに呟いた。
耳を澄ますと、低い声が彼の耳元でささやいた。
「おかえり、私を思い出してくれたのね…」
友人たちは恐怖に凍りついた。
隆は恐怖を抑えながら、「誰だ、今の声は？！」と叫んだ。
光司は顔を青ざめさせ、彼に肩を叩きつつ言った。
「離れよう、今すぐ！」
彼らが逃げようとした瞬間、外で何かが崩れる音がした。
若者たちは驚き、慌てて小屋を出て走り始めた。
だが、光司だけは立ち止まり、さっきの声の正体を探ろうとした。
すると、あの人形が動いたかのように見えた。
「私を……そばにいて……」
光司は後ろを振り返り、友人たちの姿を探しながらも、どこか惹かれるものを感じていた。
彼は人形のもとに近づくと、手を伸ばした。
「お前は誰なんだ？」
しかし、尋ねる間もなく、目の前が真っ暗になった。
その瞬間、亡くなった一家の姿が現れた。
彼らはそれぞれの表情を浮かべ、無言で光司に近づいてきた。
幼い子供の霊が手を伸ばし、「この家に帰ってきてほしい」と訴えるように見えた。
恐怖に駆られる光司。
すると、冷たい風が彼を包み込み、心の奥底に秘められた思いが引きずり出されていく。
「お前たちを忘れたことはない」と心の中で呟いた瞬間、温もりを感じた。
その瞬間、彼は一つの決断を下した。
「私はあなたたちを忘れない。必ず戻ってくるから！」
彼は振り返り、友人たちと共に小屋から飛び出した。
夜空に響くような高音が、彼の心の中に残り続けた。
その後、光司は村に戻らず、その小屋に再び訪れることを心に決めた。
小屋には何かが残り、彼の心にずっと宿る「談」として生き続けることになったのだ。
