「忘れられた家族の囁き」

公の家は、町外れの古びた一軒家だった。
彼の家系は代々その土地に住んでおり、家の中には多くの古い礼儀や伝統が息づいていた。
しかし、最近、家の中で奇妙な現象が起こるようになっていた。

ある晩、公は親友の健と共に、昔から語り継がれている怪談を話すことにした。
灯りを消し、二人は舟を漕ぎ出した。
「この家には、昔、ここで一緒に暮らしていた不幸な家族の霊がいるって言われてるんだ」と公が言うと、健は眉をひそめた。
「本当にそれなのか?ただの噂だろう」と返す。

その時、公の目に、薄暗い廊下の角に何かが動くのが見えた。
彼は視線を向けたが、すぐに消えてしまった。
その瞬間、健は不安を感じ始め、「お前、あれ見たか?」と尋ねた。
公は頷くが、友人の恐怖を煽ることは避けた。
「大丈夫、大したことないよ」と言いながらも、心がざわつくのを感じていた。

夜が深まるにつれ、部屋の中の空気が重くなっていく。
公は自分の家には何かいるのではないかと気が付いた。
彼は友人と一緒にいることで安心感を保とうとしたが、徐々に恐怖が増していった。

そんなある晩、健は心のうちを公に打ち明けた。
「最近、夢の中でその家族が出てきて、私たちに何かを訴えているような気がする」と言う。
公も同様の夢を見ていたため、二人は驚いた。
彼らは夢の中で、家族が何かを訴えていると理解し、その正体を探るために行動に出ることを決めた。

彼らは家の中を探し回り、古い物や写真を見つけた。
その中には家族が笑顔で写っている写真と、一本の古びた日記があった。
日記には、この家族がどれほど幸せだったか、しかし不幸にも災厄に見舞われて眠れぬ日々を送っていた様子が綴られていた。

その晩、また夢の中でその家族が現れ、公たちを呼んでいた。
公と健は、彼らの声に導かれるようにエネルギーを感じながら、二階の子供部屋に向かう。
そこで異様な静けさに満ちた空間を感じた。
公は「この家族と仲を結ぼう」と思い、音を立てずにその部屋に入った。
すると、ふと背筋が凍るような感覚が走った。

その瞬間、部屋の中の空気が急激に変わり、まるで誰かが自分たちを見つめているかのようだった。
公と健は、お互いの顔を見合わせる。
「逃げよう!」と健が叫び、二人は速やかにその場を離れたが、絡みついてくる冷たい空気により、まるで足が動かなくなった。

すると、背後から低い声が聞こえた。
「私たちを忘れないで…」その声は、先ほど見つけた日記に書かれていた家族の声のように思えた。
そして、彼らの目の前に、薄く浮かぶような影が現れた。
影は手を差し伸べ、公と健はその存在に心を惹かれていく。

突然、周囲の光が一斉に消え、真っ暗闇に包まれた。
心臓が高鳴る中、二人は互いの手を強く握りしめた。
しばらくして、空間に微かに光が差し込み、影がゆっくりと消え始めた。
その瞬間、彼らはどこか別の場所へ移動していた。

目の前には、日記に描かれていた家族が立っていた。
彼らの顔には悲しみと希望が共存していた。
「私たちの存在を知ってくれてありがとう。心の仲間として私たちを忘れないで」と一声かけてきた。
公と健は、彼らの想いを形にするため、心から誓った。

その夜、夢の中で出会った家族の影は、二人にとって忘れられない経験となり、彼らの友情はより深まった。
そして、彼らはもう一度その家を訪れることを約束し、怪談の真実に屈しないとの強い意志を持って、その場を後にした。

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