古びた館。
そこには、若き女性、真理（まり）が一人で住んでいた。
彼女は家族から受け継いだこの館で、毎日を穏やかに過ごしていたが、館は次第に不気味な印象を帯びていた。
特に夜になると、その影は深く、何かが潜んでいる言いようもない恐怖感が漂っていた。
ある晩、真理は友人を招いて小さなパーティーを開くことにした。
しかし、友人たちが集まる前に、真理は館の異様な静けさに不安を感じた。
風が窓を叩く音や、床の木がきしむ音がいつも以上に大きく聞こえる。
彼女は自分を鼓舞するように深呼吸をし、準備を続けた。
パーティーが始まり、笑い声や会話が館に満ちる中、真理は少しずつ安心感を取り戻していた。
しかし、夜が更けるにつれ、友人たちに不思議な現象が次々と起こり始めた。
最初は、小さな扉が勝手に開いたり閉まったりすることがあった。
「これ、いい雰囲気を出すための仕掛けかな？」友人たちは笑い飛ばしたが、真理はその一瞬の異様な冷気を感じていた。
次第に、薄暗い廊下で、誰もいないはずの部屋から不気味なささやき声が聞こえ始めた。
「助けて、助けて…」それは女の声のように聞こえ、真理の心に恐怖を植え付けた。
彼女は友人たちがそれに気づかないように、笑顔を作ってごまかした。
しかし、ささやき声はどんどん大きくなり、真理の耳元で響くようになった。
「ねえ、真理ちゃん、どうしたの？」友人の一人、健一（けんいち）が彼女の様子に気づく。
「ああ、いや…なんでもないよ」と言った瞬間、真理の目の前で突然、真っ暗な影が壁を横切った。
彼女は驚きのあまり声を上げ、全員が一瞬静まり返った。
「どうしたの？」他の友人たちも不安そうに尋ねる。
真理は恐怖で震えながら「何か、いる…」とつぶやいた。
その瞬間、館全体が軋むような音を立て、冷たい風が彼女たちの背筋を撫でた。
一斉に、友人たちは身を寄せ合い、怯えるように団結する。
時が経つにつれ、真理は周囲の状況が変化していることに気づく。
彼女たちが立っている場所の空気が、一変して重たくなり、視界もうっすらと霞んでいく。
「やっぱり不気味だね、ここ」と冗談めかして言った健一の声が響くが、その瞬間に館のドアが凄まじい音を立てて閉じられる。
真理は、どこかの部屋の方から聞こえた声が「ここにいる…」と言ったように聞こえた。
「やめよう、もう帰ろうよ」と友人の一人が提案するが、館がその動きを許さないかのように、壁から再び凄まじいささやき声が現れる。
「帰れない…帰れない…」彼女たちの目が不安であふれ、誰かがパニックに陥って叫び始める。
真理は友人たちを守るようにして、館の中心に向かう決心をした。
そこには一枚の古びた鏡が掛かっていた。
真理がその鏡を見ると、映ったのは彼女だけではなく、背後にうっすらと立つ女性の影だった。
その女性は、目を見開き、こちらを見ている。
「助けて…私を忘れないで…」その声がまともに耳に響き、真理の心は引き裂かれそうになった。
彼女は振り向くが、誰もいない。
その瞬間、館が大きく揺れ始め、まるで真理たちを飲み込もうとしているかのようだった。
真理は、自分がこの館に何かを解き放ったのだと気づく。
「私が必ず助ける…だから、私を…私を忘れないで…」
その瞬間、真理は自らの意識を集めて、友人たちを引き連れ、館の外へ逃げる決意をした。
冷たい風が押し寄せ、後ろからは再び「帰れない…帰れない…」という声が追いかけてきた。
しかし、真理は負けてたまるものかと思い、友人たちの手を強く握って走り続けた。
やがて、館の外に出ると、一瞬の静寂が訪れた。
振り返ると、館はその美しい姿を維持していたが、若干のひびが入っているように見えた。
「これが最後かもしれない…」真理は心の中で誓った。
館に閉じ込められた女性の声が消え、真理たちは必死に叫びながら、まぶしい月明かりの元で立ち尽くしていた。
彼女はその夜の出来事を忘れずに生きていくことを決意し、友人たちに何度も言った。
「私たちは一緒だから、大丈夫。」そして、怖い夜を乗り越えた真理たちは、新たな一歩を踏み出し、日常へと戻って行った。
しかし、館の一角には、彼女たちの姿を見つめ続ける見知らぬ婦人の影が残されていた。
