ある秋の夜、徹は仕事帰りに普段通らない道を選んだ。
薄暗い街灯の下、彼は何かに導かれるように歩いていた。
不吉な予感が胸をざわつかせたが、好奇心に勝てずそのまま進むことにした。
道は徐々に狭まり、公園の奥へと続いている。
公園に近づくと、不気味な静けさが広がっていた。
人影はなく、葉が風に揺れる音だけが響いている。
徹は、かつてこの公園で友人と過ごした思い出が蘇り、ほんの少し微笑んだ。
しかし、その微笑みはすぐに不安に変わった。
彼の周囲が急に冷たくなり、まるで誰かに見られているような気がしたからだ。
ふと、彼の視線が夜空を見上げると、一際大きな月が輝いていた。
その時、彼は誰かの声を耳にした。
音の方へ近づくと、そこにはひとりの男性が立っていた。
彼は長い黒髪を持ち、薄い白い着物を着ていた。
不気味な雰囲気をまとったその男性は、徹に向かって微笑んだ。
「ようこそ、ここへ。」
恐怖を感じた徹は足を後退させた。
「君は誰なんだ?」と聞くと、男性はゆっくりと近づいてきた。
その目には奇妙な光が宿っている。
「私はこの公園の守り手だ。あなたに伝えたいことがある。」
その言葉に徹の心拍数が上がる。
「何を伝えたいんだ?」彼は恐る恐る質問した。
男性の微笑みは変わらないが、今度はその口調が冷たくなった。
「この公園の奥には、忘れられた者たちがいる。彼らは過去の悲しみを抱えて、今もなおここに留まっている。そして、彼らに気づく者を待っている。」
徹は思わず振り返り、逃げ出したい衝動に駆られた。
しかし、体が動かない。
目の前の男性が彼を捕らえ、目を離せなくしているようだった。
男性の唇が動き、言葉が続く。
「あなたには特別な運命がある。彼らの思いを受け止めない限り、あなたはこの公園から出られない。」
その瞬間、空気が一変し、周囲の景色が霧に包まれていく。
徹は立ちすくみ、周囲に何かが存在していることを感じた。
ふとした拍子に、彼の心の中に過去の記憶が押し寄せてきた。
それは、彼がかつて大切にしていた友人を失ったことだった。
彼の心に深い悲しみを残し、愚かにもその思いに向き合わずにいた。
「彼らの声を聞きなさい。それがあなたを救う鍵になる。」
その言葉が響くと同時に、周囲の霧の中に影が現れた。
徹は恐る恐るその方向へ向き直った。
彼の目の前には、彼が失った友人たちの姿が浮かんだ。
懐かしい笑顔、幸せな時間、そして悲しみが交錯する。
彼は思わず涙を流し、彼らの名を呼んだ。
「ごめん。忘れてしまっていた。許してくれ。」
その瞬間、影たちが彼の周りに集まり、彼に触れた。
温かさが心に広がり、過去の辛さが和らいでいくのを感じた。
「やっと思い出してくれたね。」その声が耳に響くと同時に、霧が晴れていった。
周囲の景色が徐々に明るくなり、徹は公園の出口を見つけた。
彼はもう一度、その男性の姿を振り返った。
彼は静かに微笑み、「あなたの選択が未来を変えた。」と言った。
外に出ると、月明かりが明るく照らし、彼は心の中に平穏を取り戻していた。
公園を後にする時、彼はもう悲しみに囚われることはないと心に誓った。
彼は、愛や思い出が決して消えることのないことを、知ったのだった。