「忘れられた光の先に」

何もかもが静まり返った洋館。
時折、冷たい風が窓を叩く音だけが響く。
長い間放置されているこの家には、かつて多くの人が住んでいた。
しかし、今はただの廃墟のようだ。
その中に一人の女性が、過去の記憶を追い求めて入り込んだ。
彼女の名は難(ナン)。
彼女は亡き母の形見を探すため、幼い頃に住んでいたこの家に足を踏み入れたのだ。

薄暗い廊下を進んでいくと、難はふと目にした光に惹かれた。
何かが彼女をそこへ導くかのように、鮮やかな光は廊下の奥から放たれていた。
興味を持ち、静かにその光に近づく。
光の正体は、古びた額縁に入った一枚の絵だった。
そこには、若い女性が笑顔で写る姿が描かれていた。
彼女の目は生き生きとしており、まるでこちらを見つめているかのようだった。

「お母さん…」

その瞬間、難は胸が締め付けられるような思いに襲われた。
母の笑顔を思い出しながら、その絵に手を伸ばす。
しかし、絵に触れた瞬間、強い衝撃が走り、頭の中が真っ白になった。

意識が戻ったとき、周囲は一変していた。
軽やかな風が吹いていたはずの廊下は、どこか陰鬱な気配を纏っている。
光も消え、まるで付喪神にでも憑りつかれたかのように重苦しい空気が流れていた。
難は動揺し、急いでその場を離れようとするが、廊下はまるで目の前に立ちはだかるように延々と続いていた。

その時、背後から微かな声が聞こえた。
「早く、私のところへおいで…。」

振り返った難の目に映ったのは、先ほどの絵の中の女性だった。
彼女は立ち上がり、難の方へ向かって手を差し伸べていた。
しかし、彼女の表情は、先ほどの笑顔とは異なり、無表情で冷たいものだった。

「あなたは、私の求めるものを手に入れる必要があるの。」

その声は、心に響くように伝わってきた。
難は恐怖に駆られ、逃げようと試みたが、足が動かず、時が止まったかのように感じられた。
彼女は、自分の周りに異様な光景が広がっていることに気づく。
壁には無数の影がよぎり、その中から何かが囁いているようだった。
「ここにここに、私たちを連れて来るのだ…。」

「何を…?」

難は混乱しながらも声を上げる。
すると、再び絵の女性が近づいてきた。
「私たちは、亡き者たちの記憶。あなたが私の形見を見つけ、私と共にこの家で永遠の時を過ごすことを求めているの。」

彼女の言葉に、難の心は恐怖から重い悲しみに変わっていく。
亡くなった母を思い、行き場のない想いが溢れ出てくる。
彼女は無意識に目を閉じ、深く息を吸った。
母の温もりを感じたあの日々が蘇り、彼女の心の奥に潜む魂が呼び覚まされた。

「私はここにいる。あなたは決して私を見失わない。」

その声は、敬虔な哀しみを持って響いた。
難は意識を喪失し、絵の女性とともにその場へ静かに溶け込んでいった。
館の影たちは歓喜に沸き、彼女の魂を失ったかのように、再び静けさを取り戻した。

やがて、廊下には誰も見ていない静かな夜が訪れた。
ただ一つ、薄暗い廊下の奥に、光を放つ額縁だけが存在していた。
いつまでも、囚われた者たちのために光を揺らし続けているように。

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