ある夏の夜、郊外の古びた倉庫で、尚子は友人たちと肝試しをすることにした。
倉庫は誰も近づかない場所にあり、長い間放置されているようだった。
もともと倉庫として使われていたため、内部には様々な物が散乱しており、薄暗い中、尚子たちの影が壁に揺れ動く様子は、まるで何かが彼女たちを見ているかのように感じられた。
「こんな薄暗いところ、ほんとに大丈夫?」友人の光が、一歩踏み出すのをためらいながら言った。
尚子も一瞬、何か不安な気配を感じたが、気を取り直して「大丈夫だよ、肝試しなんだから」と笑顔を見せた。
倉庫の中は、長い年月の間に汚れた壁や埃に覆われた物がいっぱいだった。
手を伸ばせば触れることができそうなほど近くに、さまざまな古道具や空の箱が無造作に置かれていた。
尚子たちはその中を進んで行き、徐々に奥へと歩を進めた。
「ここは本当に人が入ってこないのかな?」光が不安を口にした瞬間、突然、視界が一瞬暗くなった。
明かりがちらつき、周囲の物が微かに揺れるように感じられた。
「何か感じた?」尚子が尋ねたが、光は小さく首を横に振った。
しばらく進むと、尚子はふとした瞬間に、古い木の棚の上に置かれた一冊の日記を見つけた。
気になった尚子は、友人たちに呼びかけてその場に立ち止まった。
「見て、この日記。何か面白そうなことが書いてあるかも。」そう言ってページをめくり始めた。
日記には、かつてこの倉庫で働いていた人たちの思い出や苦しみが綴られていた。
特に、一人の女性の名が何度も記されているのが目に留まった。
彼女の名前は「美紀」。
彼女はこの倉庫で多くの昨今の出来事や悲しみのうちに生き、彼女のことを思い出す人がいなくなった途端、何かが起こったようだった。
「美紀って、何かあった人みたいだね」と尚子が言った瞬間、長い静寂が倉庫の中に広がった。
友人の一人が「もしかして、あの女性の霊が現れるのかな…」と言ったとたん、ひゅうっと冷たい風が吹き抜けた。
「うわ、寒い!」光が声を上げた。
尚子の背筋に寒気が走った。
その時、倉庫の奥から微かに「助けて…」という声が聞こえた。
尚子たちは一瞬、顔を見合わせ、恐怖で硬直した。
その声は明らかに誰かのものだった。
彼女たちの方へ向かってくるように響いている。
不安を感じながらも、尚子は「行こう」と言いかけた。
しかし、動くことができなかった。
何かが彼女たちを倉庫の奥へと引き寄せようとしているように感じたのだ。
恐怖を押し殺して、尚子は再び日記を開き、ページをめくった。
すると、交わりあうように書かれた美紀の思い出や過去の出来事の中に「もう一度、私を思い出して」と書かれている文章が目に入った。
それを見た瞬間、彼女は理解した。
美紀の心がこの場所に焼き付いているのだと。
「美紀さん、私たちが助けてあげたいです。あなたのことを忘れないよ」と呼びかけたが、風が彼女の言葉をかき消した。
周囲が急に静まり返り、倉庫の中の空気が重たくなった。
すると、思わず振り返った瞬間、長い髪を持った女性の姿がかすかに見えた。
驚愕し、尚子は言葉を失った。
美紀の姿は、彼女たちの過去そのものを呼び起こすように、倉庫の奥から淡く浮かび上がっていた。
この場所の思いを背負った存在であり、彼女たちの心の奥底に刻まれた何かを求めるかのようだった。
その瞬間、尚子は自分がこの倉庫の中で何をすべきかに気づいた。
過去と向き合い、忘れ去られた存在を思い出すことこそが、美紀を救う鍵なのではないかと。
そして、尚子は心の中で美紀に誓った。
この瞬間を持って、この場所の秘密を解き明かし、彼女を解放する。
もう一度過去を感じ、生きる力を再び取り戻すのだと決意したのだった。