「忘れがたき思いの墓」

夜の静寂に包まれた墓地。
月明かりに照らされた墓石が、まるで人々の記憶を物語るように立ち並んでいる。
薄暗い場所に一人の青年、タクミが立っていた。
彼は故郷を離れ、町の外れにある古い墓地を訪れていた。
何かを探し、何かを感じ取るために。

その日、タクミは友人であり旅の仲間であるケンを亡くしてしまった。
事故による突然の別れだった。
二人は多くの義務を抱えていたが、それを果たす前にケンの命が尽きてしまったことで、タクミには心の奥に重い罪悪感が残った。
彼はもう一度、ケンと一緒に過ごした時間を思い返し、別れの挨拶をするためにこの墓地を選んだのだ。

墓石の前に立つと、タクミは目を閉じて故人への想いを馳せた。
「ごめん、ケン。僕がもっと注意深ければ、君は……」彼の心には、仲間を失ったことへの悔恨が渦巻いていた。
その瞬間、静寂を破るように、冷たい風が吹き抜けた。
タクミは驚いて目を開け、周囲を見回した。
だが、誰もいない。

すると、彼は一つの墓石に目を留めた。
それはケンの墓ではなかったが、どこか親しみを感じさせる古びた墓だった。
そこには「義」と刻まれた名前があった。
タクミはその名前を聞いたことがあった。
以前、ケンと共に古い話を語り合った時に出てきた名前だ。
彼は不思議な縁を感じ、その墓の前に進んでいった。

その瞬間、空が一瞬暗くなり、何か異様な感覚が彼を包み込んだ。
タクミは身震いしながら、その場に立ち尽くした。
墓からは微かな光が放たれ、誰かが這い出てくるかのようだった。
彼は恐怖を抱えつつも、好奇心が勝ってその光に引き寄せられた。

その光の中から浮かび上がってきたのは、一人の少女だった。
彼女は白いドレスを着ており、悲しげな表情を浮かべていた。
「あなた、私たちのことを覚えている?」少女は静かに尋ねた。
タクミは思わず震えた。
彼女の声にはどこか懐かしさがあり、同時に切なさを湛えていた。

「覚えている……でも、誰なの?」タクミはつい口に出してしまった。
彼女は微笑みながら、周囲を見回した。
「私の名前は義。私はここで、多くの人々の思いを受け止め続けている。でも、誰かが私を必要としない限り、私はここを離れられない。」

「必要とされていない?どういうことなんだ?」タクミは疑問を抱いた。
義は目を閉じ、少しの間沈黙した後、再び静かに語り始めた。
「人々は、私たちの思いを忘れがち。だから、多くの者がこの墓に来て、私を必要とすることで、彼らの心の奥底にある思いを取り戻すことができる。」

タクミの心に痛みが走った。
彼は自分がこのままではケンのことを忘れ去ってしまうのではないかと恐れていた。
彼はケンへの想いを抱え、同時に義の存在が彼にどれほどの影響を与えるかを感じた。
「僕も、何かを忘れたくない。ケンのことを……」

その言葉を聞いた義は微笑んだ。
「だったら、あなたが彼を忘れない限り、彼の思いは生き続けるの。」タクミはその言葉を心の奥に刻み、悲しみと共に希望の光を感じ取った。

だが、その瞬間、突然周囲が暗くなり、風が強く吹き荒れた。
タクミは立ち尽くし、その現象に圧倒された。
義はどこか悲しい顔をしながら言った。
「あなたはこれから、ケンの思いを抱えながら進むのね。そして彼の思いを守り続けることが、あなたの義務となる。」

タクミは頷きながら、義が何を伝えようとしているのかを理解した。
彼は敗北感にさいなまれながらも、自らの責任を受け入れ、旅を続ける決意を固めた。
そして、義の存在が彼に新たな道を示したのだ。

静寂が再び訪れ、少女の姿は光の中に消えていった。
タクミは一人残され、彼の心には新たな覚悟が芽生えていた。
彼はケンのことを忘れない。
これからも、彼の思いを背負って旅を続けるのだ。
復讐や悲しみではなく、義によって結ばれた絆の物語を。

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