「忌みの迷宮」

深い森の中には、誰もが足を踏み入れたがらない迷宮があった。
そこは「忌みの迷」と呼ばれ、無数の霧に包まれた道が絡まり合い、訪れた者を永遠に迷わせるという言い伝えがあった。
村人たちは、絶対にその山の中に入ってはいけないと、子どもたちに教え込んでいた。
しかし、好奇心旺盛な若者たちには、その言葉が逆に興味をそそった。

そんな中、佐藤健太と山田明美は、友人たちとともにその迷宮に挑むことに決めた。
彼らは「運試しだ!」と酒を酌み交わし、夜になったら森へ出かけると盛り上がった。
その晩、友人たちは興奮に包まれ、全員が集合した。

「本当に行くのか?あの迷宮には何があるかわからないぞ」と言ったのは、内気な藤井祐一だった。
しかし、他の友人たちは笑って軽視した。
「大丈夫だって。夜の森なんて、そんなに恐くないよ!」

若者たちは意気揚々と夜の森へと向かった。
そして、迷宮の入り口にたどり着くと、彼らは軽い気持ちで一歩を踏み出した。
最初のうちは、冗談を言い合いながら楽しく進んでいったが、やがて森の深い静けさが彼らを包み込み、周囲は徐々に不気味さを増していった。

「ここ、本当に入っていいのか?」と健太が言うと、他のメンバーも次第に恐怖を感じ始めた。
しかし、明美は意地になって進もうとした。
「まだ大丈夫よ。怖がるのはもったいないわよ!」

そう言って先を行く明美の後を追い、その時、急に断ち切りようのない霧が彼らを飲み込んだ。
視界は真っ白になり、仲間たちの姿もほとんど消えてしまった。

「みんな!どこにいるんだ!」健太は叫んだが、仲間の声は返ってこなかった。
迷宮の中で彼だけが取り残されているかのような不安が広がり、彼は立ち尽くした。

突然、耳元で「こっちだ」と囁く声がした。
誰かが自分を呼んでいるのだろうか。
声の方へ足を向けると、まるで暗いトンネルを通るような感覚を覚えた。
迷い込んだ地点を忘れ、ただその声に従って進んでいくうちに、また霧が深くなり、また消えた。

「助けてくれ…!」若者の声が森の中で響く。
しかし、その声は長くは続かなかった。
しばらく進んだ後、またもや冷たい静寂に包まれた。
雲が切れ、満月が顔を出すと、冷たい明るさが視界を照らした。
そこで彼は、周囲の景色が少し違うことに気付いた。

木々が揺らめき、誰かの姿が見えた。
それは、明美だった。
彼女はじっとこちらを見つめており、顔色はどこか異様に青白かった。
嬉しさと恐怖が交錯し、健太は彼女に駆け寄った。
「明美!みんなはどこだ!」

しかし、彼女は無言で優しく微笑むだけだった。
彼女の目に映る、彼が感じる「怖さ」の色が変わっていく。
明美はその瞬間、消えてしまった。

健太の心に恐怖が広がり、彼はまたもや声を上げたが、返事はなかった。
そして、彼はどうにか出口を探すため、迷宮の奥深くへ進んだ。
進むうちに、無数の木々の間から咲く薄暗い花々が目に留まり、それに足を止めさせられた。
その花は、彼に何かを思い起こさせる不気味な香りを放っていた。

「お前たちは、忌みの者だろう」と突然、声が聞こえた。
目の前には、朽ち果てた姿の人々が現れ、彼をじっと見つめている。
彼らは無表情で、怨念のようなものを発散していた。
すぐにそれが「者」の体験の一部だと理解した瞬間、彼の体は硬直した。

「忘れ去られた者に、最期の語を伝えろ」と言いながら、彼らは近づいてきた。
さらに、視界が徐々に歪み、その場で彼は動けなくなった。
そこには、苦しみと恨み、忘却の果ての悲しみが渦巻いていた。
彼は自分が「忌みの者」と同じ運命を辿ることが避けられないと悟った瞬間、突然、全てが闇に包まれた。

しばらくして目を覚ました彼がいた場所は、驚くことに迷宮の外だった。
しかし、彼の心には何かが残った。
戻った先には、彼の友人たちの姿はなく、村は変わらず静けさに包まれていた。
彼は、一度入ったら二度と戻れない「忌みの迷」を知る者となり、一人孤独にその夜を過ごす運命が待っていた。

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