村の外れにある古びた葬儀場。
その日は、高齢の住人が亡くなり、村人たちが集まり葬儀が執り行われていた。
葬儀場の周囲には不気味な雰囲気が漂い、夕暮れの薄暗い光が射し込む中、集まった人々は故人をしのびつつも、どこか落ち着かない様子だった。
葬儀は始まり、村人たちは一列に並んで故人に最後の敬意を表していた。
その中には、キクノという中年の女性もいた。
彼女は若い頃から村に住んでおり、その名は村人たちにも広く知られていた。
だが、彼女には秘めたる思いがあった。
それは、隣人であったトシオを思い続ける心だった。
彼は村で一番人気があり、キクノにとっては手が届かない存在だった。
葬儀が進む中、村人たちの話し声でざわつく空間に、突然、鈴の音が響き渡った。
その音は不気味で、誰もが振り返りその音源を探したが、周囲には誰もおらず、風もない静けさが支配していた。
その瞬間、空気がピンと張り詰め、場の雰囲気が変わった。
村人たちの顔色が変わり、彼らは互いに目を合わせ、何が起こったのかを理解できずにいた。
キクノは心の中で何かが目覚めた気がした。
その音には、彼女の中に潜む悪の感情を引き出す力があった。
彼女は、これまでも何度もトシオを想い、その度に自分の未練と嫉妬を抱えていた。
しかし、今日の葬儀では、その思いが異常なほど強くなっていた。
まるで何かの力に操られ、その感情が自分を支配しているようだった。
葬儀場の隅に立つキクノの視線は、棺の前にいるトシオに向けられた。
彼はその場にいないかのように静まり返り、彼女の心の中の影が彼を取り囲む。
ふと気がつくと、彼女の手の中には、不思議な黒い小物が握られていた。
それは、彼女が昔に自分の元に置いた呪詛の道具であり、長い間しまい込んでいたものだった。
その道具を握ると、キクノは自らの欲望にかられる感覚を覚えた。
このままでは堪えきれない。
心の底からトシオを手に入れたかった。
彼女は静かにその道具を葬祭師の隣に置き、思わず囁いた。
「彼を、私のものにして…」その瞬間、周囲の空気が一変した。
耳元に「功の声が聞こえる」という異様な感覚が広がった。
そして、キクノの目の前で、まるで幕が下りるかのように、故人の棺の中の姿が変わり始めた。
まるで生きているかのような動きで、目が開き、笑顔を浮かべた民がそこに立ち上がった。
しかし、その顔にはどこか不気味さが漂っていた。
村人たちは目を丸くし、恐怖に震えた。
故人の姿が変わったのだ。
トシオも驚愕し、今や誰も彼を止めることはできなかった。
キクノは満足げに微笑み、彼女の心の悪が現実として具現化した瞬間、村全体が悪の影に包まれた。
「いつまでも私の傍にいて…」キクノの声は、村人の耳に響き渡った。
しかし、彼女の脳裏には悪の影が色濃く映り、結局これは自分の願望の代償であることを理解することはなかった。
ただ、トシオの笑顔を見つめることで、自分の悪の心を抱きしめることに満足していた。
その後、村では次々と不幸な出来事が起こり、村人たちの心には恐怖が広がった。
何も知らないトシオは、彼女と同じようにその影に引き込まれ、忘れ去られた村の闇の中で孤独に彷徨い続ける運命にあった。
キクノの欲望は満たされたかに見えたが、その背後には、永遠に消えない災厄が潜んでいた。