夏の終わり、静かな村で不気味な噂が立っていた。
村の外れにある古い森には、昔から「忌まわしい道」と呼ばれる場所が存在し、誰もその道を通ることを許されなかった。
村人の間には「その道に入った者は二度と戻らない」という伝説が語り継がれていた。
ある日、大学から戻ったばかりの佐藤健太は、村の友人たちと共にその森に足を踏み入れることを決意した。
彼には、古びた伝説の真相を確かめるという希な好奇心があったからだ。
友人たちには、森の神秘に魅了された彼と同じように興味を持つ者たちがいた。
相沢美咲、田辺裕一、そして野村実がその仲間だ。
森に入った彼らは、しばらく進むと目の前に現れる古い石碑を見つけた。
「ここから道を選べ」と刻まれているその碑は、不気味さを放つもので、彼らの心に恐怖の影を忍び寄らせた。
「本当にこの道を進むのか?」美咲は不安そうに呟いた。
健太は引きつった笑顔を浮かべながら、「大丈夫だよ、何も起こらないって」と言ったが、心の奥では不安が渦巻いていた。
その瞬間、霧が森の中から立ち上がってきて、彼らの周囲を包み込む。
視界がぼやけ、どこにいるのかさえわからなくなっていった。
「まずい、道に迷ったかもしれない」と裕一がつぶやくと、再び石碑の方へ戻ろうとした。
しかし、美咲はそこで止まった。
「何かが後ろにいる…」彼女の顔は青ざめ、目が恐怖で見開かれていた。
その声が聞こえた瞬間、健太は背筋に寒気が走った。
「後ろ、後ろに…」誰もが感じるその気配は、まるで何かが彼らの進行を妨げるかのようだった。
混乱が広がり、仲間たちは無言で振り返った。
その瞬間、彼らは動く影を目撃した。
黒い気配は森の奥から忍び寄り、彼らに近づいてくる。
「行かねばならない、戻ることはできない」と耳元で囁く声が響く。
樹木の間から見える影は次第に形を変え、まるで彼らを巻き込もうとしていた。
裕一は恐怖に駆られ、何も考えずに走り出した。
「逃げよう!」健太も続いた。
仲間たちは乱れた足取りで霧の中を駆け抜け、欲するものが何かもわからなくなっていた。
後ろから迫る怨念のような影は、まるで彼らに道を示しているかのように進行する。
しかし、その影は決して近づいてこなかった。
「ここから逃げ出せない!」実が絶望的に叫ぶ。
彼らは道をわからなくなり、どこへも行けない心細さに襲われた。
「戦うしかない、道を選ぶんだ!」健太は叫んだが、彼の心の中には恐れしかなかった。
誰もがその場から動けずにいると、再び声が響いた。
「忌み、忌み…選ぶことはできない…」その瞬間、周囲が一瞬にして静まり返った。
森全体が彼らを見つめているかのように感じ、誰もが立ち尽くした。
「準備をしなきゃ…抵抗できるかもしれない…」健太は意を決し、仲間たちと共に手をつないだ。
彼らは数歩進み、土の感触を確かめ、振り返ることはしなかった。
影は依然として近づいており、彼らはその影との戦いを始めた。
一歩、一歩、不安と恐怖を抱えながらも彼らは進んだ。
恐れの中で信じる者の強さが彼らを支え、道が開かれることを願った。
「ここから必ず出られる!皆で行こう!」健太の声が耳に響き、仲間たちも同じ気持ちを抱いて進み続けた。
やがて、いつの間にか霧は晴れていき、目の前には道が広がっていた。
その道を進むことで彼らは森を抜け出し、静かな村に戻ることができた。
しかし、森の中で体験した恐怖は彼らの心に深く刻まれ、決して忘れることはできなかった。
その後も、村では「忌まわしい道」の噂は消えることなく語り継がれた。
そして、彼らは「忌み」と「戦い」の記憶を抱え、日常へと戻っていくのだった。