「忌の社に潜む影」

深い森の奥に、ひときわ古びた神社があった。
その神社は「忌の社」として知られ、近隣の村人たちはその存在を恐れていた。
村で起こる不幸や怪異の原因は、必ずこの場所に行き着くからだ。

ある日、勇気を持った一人の青年、タケルは、村の長老らが語る噂を確かめるために神社を訪れることに決めた。
「そんなのただの迷信だろう」と軽く思っていたタケルは、村人たちの警告も虚しく、一人暗い森に足を踏み入れた。

神社に近づくにつれ、彼は気持ちが悪くなるのを感じた。
周囲は静まり返り、ただ木々のざわめきが聞こえるだけだ。
普段は感じないような重い空気が、まるで彼を包み込むように迫っていた。
しかし、好奇心には勝てず、神社の中に足を踏み入れた。

境内には古びた石の鳥居が立っており、その先には崩れかけた社が佇んでいた。
タケルは一瞬、強い嫌悪感を抱いたが、そこで何かに引き寄せられるように足を進めた。
すると、ふと彼の視線の先、社の中で何かが動いたような気配を感じた。

「誰かいるのか?」タケルは声をかけたが、答えはなかった。
その代わり、予期せぬ現象が彼を襲った。
目の前が急に暗くなり、森の木々が彼を見守るかのように、大きな陰を作ったのだ。
タケルは体を硬くし、「逃げるべきなのか…」と悩んだ。
その時、じわじわと彼の背後に冷たい気配が近づいていることに気づき、恐怖にとらわれた。

「逃げるなら今だ」と心の中で囁いたが、身動きが取れない。
彼は足元を見下ろし、そこに散乱した何かが目に入った。
それは、古いお札や塗り込まれた木の枝だった。
その瞬間、タケルは自分が呪いの罠にかかっていることを悟った。

神社の中には、忌まわしいものを封じ込めるための罠が仕掛けられている。
彼が近づくことで、その力が解放され、何かが彼を見つめている。
神社の周囲の木々は、まるで不気味な生物が根を張るかのように揺れ、タケルの恐怖を刺激した。

彼は心を決めて、逃げようとしたが、足元に散らばるお札が引っかかり、思わず転んでしまった。
少しの間、暗闇に飲み込まれたが、タケルは必死で立ち上がり、方向を探った。
そこから見えたのは、暗くうねる道と、その先に広がる森の深淵だった。

「戻るべきなのか、それとも前に進むべきなのか」と、彼は迷った。
その時、透明な囁き声が耳元で響いた。
「戻りなさい。ここには何もない、命を奪われるだけだ」と。
しかし、彼の意思は固かった。

タケルは、彼を捕らえようとする何かの影を振り払うようにして、後ろにある神社へと目を向けた。
「このままでは済まない。私は流されてはいけない」と自分に言い聞かせた。
その瞬間、彼は力を振り絞り、神社の出口へと駆け出した。

しかし、後ろからはじわじわと伸びる影が迫ってきている。
タケルは、振り返る勇気もなく、ただ森の方向へと走る。
彼の心の中には、冒険を求める勇気があったが、それ以上に生き残りたいという本能が働いた。
彼はその場を離れることに全力を注いだ。

やがて、森を抜け、タケルは無事に村に戻った。
だが、心には深い傷跡が残っている。
それ以降、彼は神社という忌まわしい場所を二度と訪れることはなかった。
そして、村人たちの警告を無視したことを、永遠に後悔することになった。
彼の冒険心は、忌わしい罠と対峙した恐怖として、心の底に根付いたのだった。

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